第二十三章 義士達

第110話 予想外の力

「何が起きたんだ!」


 近藤忠久中佐は、『那珂』のブリッジで、焼かれていく友軍機の映るモニターを見つめていた。閃光の中、同志達が焼かれていく光景は、これまでの本部勤務では仏頂面で通してきた彼には珍しく恐怖の表情を浮かべさせた。


「あれが資料にあった法術系兵器の威力だというのか?」 


 サーベルをぶら下げただけ、動きは訓練課程が終わったばかりというような敵機に翻弄され、壊滅した彼の同志達。確かにエース揃いの司法局を相手にするには数で押すしかないと判ってはいた。法術兵器の投入も予想はしていた。


『しかし、これほどとは』 


 近藤に付き従っていたブリッジクルーたちは沈痛な眼差しで映像を繰り返し見続ける。誰もがいかなる困難があろうと祖国・胡州の栄光の回復へつながる一歩としてこの決起に賛同して集まった兵士達だった。だが、目の前の実戦。しかも予想を超える敵の威力の前に言葉もなくただ画面を見つめるだけだった。


 法術師の捕獲と言う最上の結果はすでに失われた。その力を利用して一気に外敵を排除して故国に栄光を取り戻す夢は絶たれた。出来ることは一つ、敵艦『高雄』を沈めて、演習場の外で見物している他国の艦隊に自分達の力を見せ付ける以外に選択肢はない。


「艦長!主砲発射待機は?」 


「十分な観測データが取れていません!それに現在主砲射線軸上に友軍機が三機交戦中です」


 艦長の表情にはおびえが見て取れた。先日は近藤を前に彼等をこんな辺境に押し込めた宰相西園寺義基を罵倒していた豪快な彼の面影は無い。近藤は深呼吸をすると彼の肩を優しく叩いた。


「彼らの命を無駄にしないためにも必要な処置だ。直ちに主砲発射体勢に入れ!」 


「……判りました。主砲発射準備!」 


 管制員達が復唱を始める。


『高雄さえ沈めれば、必ず地球艦隊は動いて混乱が起きる!高雄さえ!』 


 近藤は思わず親指の爪を噛む昔の癖が出ている自分に気づき苦笑いを浮かべた。


「主砲エネルギー充填完了!目標座標軸設定よろし!」 


「主砲発射!」 


 艦長が声を絞り出した。同志に犠牲を出すことを覚悟しての言葉が悲痛にブリッジに響く。沈黙がブリッジを支配した次の瞬間だった。


 ブリッジのすべてのモニターが消えた。


「どう言う事だ!」 


 近藤は叫んだ。


「判りません!すべてのシステムがダウン!艦内管制すべてカットされています!」 


 艦長が不安げな顔を近藤に見せる。近藤はただ呆然と正面の何も無い空間を見つめているだけだった。

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