黄金卿の章—— 奪還作戦 其の①

「ほぉ、やけにシンプルな部屋だな。まぁ嫌いじゃないぜ。……さてと、それじゃ話を聞かせてもらおうか。もちろん作戦があるんだろ?」


 ザッシュは腕組をしたまま、備え付けられたソファに大胆に腰を掛けるとダビットを一瞥する。他のレジスタンスメンバーの冷淡な視線がザッシュに集まるが、気にする素振りすら見せない。ダビットは彼らに対して部屋を去る様合図を送ると、この素朴な部屋には二人だけが残された。


「ああ。先ずは城塞の要、囚われているハーティマス博士を救出する。そして、城塞の機能を停止させた後、『黄金卿』と直接対決に持ち込む算段だ。我々は各種陽動を行い、君を万全の状態で送り出せるようサポートしよう。だからザッシュ、君は必ず『黄金卿』を倒せ。戦力が乏しい中、君だけが頼りだ」


「へっ。作戦もクソもねぇな。完全に俺ありきのものじゃねぇか。まあいい、どうせ目的は一緒なんだ。やってやるとも。――そのかわり」


「……助かる。無事『黄金卿』を討ち果たしたら、件の写真の情報を教えよう。約束する」


「ついでにもう一ついいか。もし、あの掃き溜めの城にアリスって小娘が囚われていたら、一緒に助けてやってくれ」


「仲間か?」


「いや、ただの顔見知りさ。とはいえ、勝手に死なれたんじゃ寝覚めが悪いんでね」


「分かった。重ねて約束しよう。ところで、その腕は大丈夫なのかね?先ほどから異音が耳に入って気になって仕方がない」


 ダビットは、顰め面をしたままザッシュの右腕へと目を向ける。この瞬間にも右腕から歪な機械音と共に灰色の気体が出てくるのが見て分かる。ザッシュは特に気にした素振りを見せることもなく返す。


「これか?問題はないさ。ただ、可能なら金属質の物質をもらえると非常にありがたい。なに、鉄屑で構わん」


「――だったら、離れに丁度いい場所がある。お目当ての物は必ず見つかるさ。見たところ、その腕は『駆導機甲ギアト゚レット』の一種なのだろう?そうであれば、ナノマシーンによる自己修復機能が備わっているはずだ。金属の山に浸しておけば、ナノマシーンがそれを分解・吸収して再構築する。普通の機構パッケージなら数分で終わるそうだが……お前さんのはどうだろうな?」



「コイツは――錆剣ラストブラットは俺の目が覚めたときからずっと備わっていたものだ……本来あったはずの右腕の代わりにな。由来までは知らないし、さほど興味もない。だがあんたの言うとおり、俺のこの腕は金属を喰らうことで勝手に修復される。……しかし、腑に落ちない。何故あんたはそんなにもコイツに詳しいんだ?」


 ザッシュは怪訝な目をダビッドに向けると、右腕を軽く二回叩いて、質問を投げかける。

 ダビットからの返答は、特に間を置くこともなくすぐに返ってきた。


「知りたいか?といっても簡単なことだが」


 そう言うと、彼は自身の左腕の上を撫でる様になぞった。瞬間、左腕の表面がけたたましい音を奏でながら黒く歪な形へと変形していく。


「私も似た様な物を持っているからだ。最も性質は少し異なるがね」


 灰色の煙が晴れた後、ダビットの開かれた左腕には漆黒の機関銃に酷似した銃器がそこにあった。


「――そいつは……! 一体なんだ!? まさかあんたも?」


「いや、機構パッケージは似ているが正確には違う。私のは元々あった肉体にナノマシーンの組み込まれた特殊金属を合成加工コーティングしたものだ。生身の部分がもう殆ど存在していない点については、同じかもしれないがね――さて、話はここまでだ。場所を案内するから着いてこい」


 ダビットは腕を再び一撫でして元に戻すと、右手の親指でザッシュに合図を送った。

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