黄金卿の章―― 神の右腕 其の②
――全ての始まりはこの都に『彼の男』が現れたことによる。
その男は黄金の仮面を被り、薄汚れた黄色いフードで身を覆っていた。まるで醜い自身の姿を覆い隠すかのように。
事実、その男の体は幾つものぎらつく機械群が縫い張り巡らしていおり、フードの中からもその中身が飛び出ているほどだった。それは見る者に異物を飲み込むかの様な不快な印象を与えていた。
――
――だが奇妙なことにその男の『右腕』だけは何故か普通の人間の腕をしていたという。
そして時も経たぬ内に彗星の如く現れた男は、瞬く間に都の勢力図を書き換えていった。ゴロツキもマフィアも……果てには国家権力までもが今では彼の駒の一つでしかない。
彼は、都市の名称を自身の異名に因んだ『
そして、怒涛の快進撃を成し遂げた彼を人々は畏怖と畏敬の念を込めてこう呼んだ。――『神の右腕を持つ男』と。
***
「――すごいですよねぇ。一世一代でそこまでのし上がるなんて。オマケにそんなに特徴的な外見をしていれば、そりゃそんな噂も立ちますよね。まぁその都とやらも今じゃこんな有様なんですけどね」
アリスが両手を掲げて体を伸ばしているのを尻目に、ザッシュは投げやり気味に相槌を打つ。
「……んなことはどうでもいいんだよ。それよりも、だ。お前はその男について何か知ってんのか?」
「やだなぁ。知ってたらこんなに苦労しませんよぉ。アハハ、おかしなザッシュさん」
(コイツ……人の気も知らねぇで。クソッ、結局今回も何の手掛かりも無しか。今度こそ『在処』が掴めると思ったんだがな)
ザッシュは得られた情報の少なさとアリスの煽りに少々の苛立ちを覚えると、小さく舌打ちをした。
「そうか。じゃぁお前にもう用はない。じゃあな」
「……ッ!?ちょ、ちょっとちょっと待って下さいよ。全部知らないとは言ってないです。ちゃんと知ってることもありますってば!」
ザッシュが部屋をそそくさと出ようとすると、アリスは非情に慌てた様子で声を荒げて言った。
「――ったく。それを早く言えってんだ。で、お前の知ってることってのは一体何だ?」
ザッシュが腕を組みながらアリスに詰め寄ると、彼女は一瞬何故か僅かに頬を赤らめ、一つ咳払いをした後にこう答えた。
「……オホン。いいでしょう。では教えます……とその前に――よっと」
――バァァン――……ドサッ……
屋内に突然銃声が鳴り響いたかと思えば、ザッシュの目の前を一発の弾丸が掠めていき――窓ガラスをぶち破った。そしてすぐ下で何かが崩れ落ちるような音が聞こえた。――アリスが発砲したのだ。
即座に反応し、部屋のベランダから下を除けば、そこには額を銃弾でぶち抜かれ、すでにこと切れた優男の姿があった。よく見ると、その右手にはナイフが握られている。身に纏った黒いコート類から察するに雇われの『
「――
「全く油断しすぎですよぉザッシュさん。これは一つ借りですよ。後で何でも言うことを聞いてもらいますからね!」
「そうだな……っておい、ちょっと待てや。後半部分は聞き捨てならねぇぞ」
プンプンと怒りながら手に持った短銃をガンスピンをするアリスに、ザッシュは一瞬気が途切れたが、すぐに彼女が発した爆弾発言に気付き反論した。
そしてここで一つ謎が残った。
「……そもそも何でオレ達はこいつに狙われていたんだ?少ししか心辺りがないんだが」
「……少しは心辺りがあるんですね……。まぁおそらく原因はわたしですかね、あはは。目的はおそらく口封じかと」
「なんだと!?それは一体全体どういうことだ?」
「実はわたし――知ってるんです」
「あ?何をだよ?」
なんだ、釈然としねぇとザッシュの頭に疑問符が浮かぶ。
「いえ、だから――の秘密を知ってるんですよ」
「あ?だから誰のだよ」
「だーかーら。そんなの一つしかないじゃないですかぁ」
「おいコラ。焦らさねぇでいいかげん教えろや」
ザッシュが神をも殺す眼光でアリスを睨みつけると、流石に少し萎縮したのか、アリスはおそるおそると言った様子で切り出した。
「わ、分かりましたよ。もぅ、誰にも言わないでくださいよ。もし言ったら、わたし、一生あなたの傍で生き続けますからね」
アリスは意味心な前置きをした後、ふぅと大きな溜息を零すとひどく真剣な眼をしながらザッシュを見据えて言った。
「――わたしは『
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