京都魔界伝説殺人事件・祇園祭

近衛源二郎

第1話 また怨霊が

7月、京都の街は、高気温高湿度で過ごし辛い日常。

京都の街は、南北に加茂の流れが象徴的です。

加茂川沿いのお店には、川床と呼ばれる夕涼みしながら食事ができる施設が毎年並ぶことは、けっこう有名な、京都の夏の風物詩となっている。

東西には、西の松尾大社から東の八坂神社までを貫く四條通りでしょうか。

その八坂神社から堀川通りまでの四條通りに、祇園祭のお囃子が聞こえます。

7月に入るとすぐ祇園祭は始まる。

江戸時代までは、貞観の御霊会(じょうがんのごりょうえ)と呼ばれていた。

平安時代前期869年7月6日の、今の東北地方、三陸沖で、貞観地震と呼ばれる巨大地震が起きた。

この地震前後に、日本列島は巨大地震と疫病に襲われていた。

何度も何度も、当時の人々は、早良親王の怨霊による仕業だと恐れおののき、八坂神社で、神事を行い、早良親王の御霊に静まってもらおうと考えた。というお祭りが祇園祭の始まりである。

そんな祇園祭の喧騒の中、祇園囃子をつんざくような女の悲鳴が上がった。

1人ではなく、数人同時に悲鳴を上げていた。

その真ん中で、口から泡を吹いて、男がフラフラしながら転倒した。

老若男女を問わず、逃げ惑う人々。

1人の若い男性が、119番に電話して、警察への連絡まで依頼していた。

しばらくして、まず救急車と消防指揮車両が到着して、現場の確保を始めた。

泡を吹いて倒れた若い男性は、すでに絶命してしまっている。

『警察が到着する前に、現場

 保全するぞ・・・。』

テキパキと指示を出している指揮官に、通報者の男性が声をかけた。

『添田さん・・・

 添田救命救急師長やありま

 せんか・・・。』

ビックリして振り向いた指揮官の添田が、みるみる笑顔に変わって。

『勘太郎・・・

 なんや、警察庁に転勤した

 って聞いたけど・・・

 そうか、通報してくれたの

 お前か・・・。』

『たまたま、祇園祭に来まし

 てね。』

言わずと知れた、真鍋勘太郎である。

警察庁刑事企画課に、1年前に転勤した。

サイレンの音が止まって、小林と黒滝を先頭に、鑑識が数人走ってくるのが見えた。

添田が救急隊に指示を出して、勘太郎を取り囲んだ。

救急隊の1人に、小林が質問している。

『第1発見者は・・・。』

『この辺りの方々、全員でし

 ょう。』

救急隊員、無茶なことを言う。

『ただ、通報して下さった

 方が、添田師長のご友人み

 たいですよ。』

小林と黒滝は、良かったという表情になった。

『あの、少しお話しよろしい

 でしょうか。』

『おぅ、小林に黒滝か・・・

 しばらくやな。』

『か・か・勘太郎先輩。

 どないしはったんですか。』

『萌の休みに祇園祭にね。』

見ると、アイドル女優になった高島萌が、ファンに囲まれていた。

もう1台、サイレンの音が近づくと、小林達の車と並ぶように止まった。

『御大のお出ましか。』

本間と木田が、知らない男を連れて来た。

『勘太郎やないか。』

本間と木田は喜んだが、勘太郎の見知らない男は、不思議そうにしている。

『私、京都府警察本部捜査1

 課凶行犯係主任で島本と申

 します。』

勘太郎の後任者である。

『警察庁刑事企画課監理官・真鍋勘太郎です。』

古くからのメンバーは、目を白黒させた。

『か・か・勘太郎・・・

 監理官ってお前、位が。』

『ハイ・・・

 この4月にテストに合格

 して、警視になりました。』

本間と木田に小林と黒滝、佐武も集まって、大絶叫した。

『け・け・警視って、

 この辺りやったら、警察署

 長ですやん。』

本間の位すら追い抜いてしまっている。

『警部・・・

 逓信病院の梨田先生と、連

 絡つきました。

 被害者搬送します。』

小林が、本間に報告した。

『小林・・・

 搬送の担当に、梨田先生へ

 のお願いやってことで、左

 首筋の小さい傷が気になる

 と伝えさせてくれ。

 それから、黒滝・・・

 青色か赤色のプラスチック

 の円錐形の物体が落ちてへ

 んか見といて。

 もし見つかったら、指紋。』

腕組みして、何かを考えていた本間が思い付いたように。

『勘太郎・・・

 第1捜査会議、申し訳ないが

 出てもらえへんか。』

勘太郎にしてみれば、本間の依頼を断るという選択肢はない。

ただ、気になるのは、萌のこと。

ファンに取り囲こまれていた萌の方を見ると、アイドル降臨の騒動は収まって、乙女座の糸魚川と高島美野里が来ていた。

糸魚川が、勘太郎を発見して駆け寄って来る。

『旦さん・・・

 お懐かしゅうございます。

 警部・警部補、毎度おお

 きに。』

糸魚川、嬉しさからか、かなり忙しない。

『こらこら・・・

 旦那は、お前や。』

勘太郎は笑った。

『せやけど・・・

 せやけど、わてをここまでに

 育ててくれはったんは、旦

 さんどす。』

糸魚川、べそをかいている。

萌と美野里が近付いたので、萌に乙女座で待ち合わせの話しをして、勘太郎は本間と木田の後を追った。

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