白球のシンデレラ

雅鳳飛恋

一年生編

第1話 入寮

 鎌倉学館高等学校の入学式一週間前、野球部寮の入寮日に合わせて二人の少女は日本にやって来た。

 

 その少女二人、ヴァレンティナ・ヴィルケヴィシュテとセラフィーナ・ニスカヴァーラはヴァレンティナの伯母が理事長兼学園長を務める鎌倉学館野球部を強豪にする為に請われて入学する事に決めた。

 

 レン――ヴァレンティナの愛称――はリトアニアと日本のハーフでアメリカ出身、セラ――セラフィーナの愛称――はフィンランドと日本のハーフでアメリカ出身であり、二人は家族ぐるみで親交のある幼馴染みだ。 


 レンの伯母の話では、鎌倉学館は広大な敷地を有し、一学年一〇〇〇人を越え、全校生徒数は三〇〇〇人を越えるマンモス校との事だ。

 文武両道を掲げており、学業、部活動共に力を入れていて、全国常連や県大会優勝候補などの強豪部が多数存在するらしい。


 各部順番に力を入れて来ていて、今まで野球部にはあまり力を入れていなかったが、レンが高校進学する機会に野球部に力を入れる事にしたのだ。


 世界的人気スポーツとなった女子野球でもやはり本場はアメリカである。

 そんなアメリカで野球をしていたレンに野球部を強くする手助けをして欲しいと頼まれたのだ。


 元々野球をする上で最高の環境にいたので、正直レンにはあまりメリットがなかった。

 だが日本の甲子園大会は有名なので興味もあった。なので伯母には条件を付けさせてもらったのだ。


 まず、環境を整える事である。

 なので今は、野球グラウンド二面、屋外ブルペン、屋内ブルペン、室内練習場、トレーニングルーム、野球部寮などを新たに作り、野球機材や道具も購入した。

 レンは事前に写真では見ていたが、まだ実際に見ていない。だが、正直やり過ぎ感満載である。


 元々強豪部ならまだしも、現在は全くの無名校なのにである。

 現在の部員は七人しかいないのだ。しかも昨年は卒業した三年生の代は部員が一人しかおらず、全員で八人で、大会にも出られなかった。


 環境を整えろと言ったのはレン自身だが、伯母に聞いた時は「絶対やり過ぎだよね」と呆れた。

 時期尚早感が否めない。


 もう一つの条件は有望な選手を獲得する事だ。

 レンは自分とセラは一般入試で良いから、何の実績もない部の少ない推薦枠を使って有望選手を獲得しろと伯母に言った。

 ちなみに、レンがセラにこの話をしたら彼女もついてくる事になったのである。


 そしたらこちらもしっかり二人獲得したと言う。

 正直レン達は日本のガールズの事は知らないし、どれ程の選手かはわからない。だが、伯母の話では結構有名との事。他の強豪校からも誘われていたらしいが、それらを全て蹴って鎌倉学館に決めたらしい。その話を来た時、レンは何故? と心底思った。

 

 何にせよ、伯母は条件を満たしので、二人は鎌倉学館に入学する事になったのである。

 もちろん二人共ちゃんと試験を受けて合格した。コネではないよ。と名誉の為に言っておく。

 あと、二人は留学生ではない。彼女達は日本のハーフで日本の国籍も所有しており、一般入試を受けて入学するからだ。


◇ ◇ ◇


 日本にやって来て数日は伯母の自宅で過ごしたレンとセラは野球部の入寮日に件の寮にやって来た。


「写真では見せてもらったけど、立派な寮ね」


 寮の前までやって来た二人は、寮の外観を実際に拝見して、セラが率直な感想を口にした。

 野球部寮は学校の敷地内にあり、寮の目の前にはグラウンドがある。


 すると、寮の入口から二人の女性が出てきてレン達に声を掛けた。


「お、もう来てたのか。入寮生かな?」


 そんな言葉と共に先輩と思わしき女性の一人がレン達の顔を見たら呆けた顔さらした。


「・・・・・・が、外国人?」


 確かにレン達の姿を見たら仕方のない反応だろう。

 レンはプラチナブロンドの髪に碧眼で、セラはストロベリーブロンドの髪に紫の瞳をしている。顔立ちも北欧系の顔をしているのだ。


「涼、違うわよ。理事長が仰っていたでしょう。理事長の姪御さんとそのお友達のよ」

「あぁ。そう言えばそうだった」


ロングヘアの穏和そうな女性がショートヘアの女性を嗜めると、彼女は思い出した様な仕草を見せる。


「これは失礼。改めまして、私は主将キャプテン岡田おかだりょうだ。よろしく」

「私は副主将キャプテン宮野みやの春香はるかです。よろしくね」


 涼はショートヘアで、凛々しい感じであり、春香はゆるふわなロングヘアで、穏和そうな雰囲気の女性だ。


 どうやら主将と副主将のお出迎えのようだ。

 レン達も自己紹介しないといけない。

 ただ申し訳ない事に、二人は日本的な敬語や上下間系とかには慣れていない。その辺は勘弁してあげてほしい。


「涼、春香。私はヴァテンティナ・ヴィルケヴィシュテ。ヴィルケヴィシュテが姓でヴァテンティナが名前だ。よろしく。申し訳ないけど、私達は日本の敬語や上下間系には慣れてないから、その辺は許して欲しい」

「私はセラフィーナ・ニスカヴァーラよ。ニスカヴァーラが姓で、セラフィーナが名前よ。よろしくね」


 そう言ってレン達は手を差し出し握手を求める。


「あぁ。二人に関しては理事長から聞いているし構わないよ。郷に入れば郷に従うという言葉があるけど、二人が今後も日本で生活するならこれから慣れていけば良いし、卒業後はアメリカに戻るなら無理に直す必要ないよ。」

「私達はそういうスタンスで接する事にしたから気にしないでね」


 先輩達はそう言って握手をしてくれる。


「ありがとう。助かるよ」

「他の入寮生もそろそろ来ると思うから、すまないが食堂で待っていてくれ。春香頼む」

「えぇ」


 春香の案内で私達は食堂に向かった。

 涼は入口前で他の入寮生を待つとの事。主将自らご苦労様だ。



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