猫
カクヨミ
自分の生きる世界とは
後になってから気付いた。
今まで一緒に寄り添っていた君の存在の重さに。
君を失った喪失感がこんなにも深い暗闇の底に沈めるとは思わなかった。君を大事に思っていた気持ちでさえ事後報告だった。
その日から身体も心もトンネルの奥の奥にあって、疲れてて残ったチカラはほんの少しで、何も見えない所でずっと君を探した。
光はあるにはあったけど、でもそれは君じゃなかった。僕が助かる為の、光とは呼べないただの出口で、それだけだった。
そんな風に感じる頃には、振り返ることしかできなくなっている自分にも気づいて、間違った世界と思った。けど、時間はただ進むしかないんだと、自分がそんな現実にいることも分かっている。
僕の周りは何も変わらないんだ。街も空も人も通い慣れた通学路も、隅から隅まで君のことなんてどうでもいい感じで、時間なんてほんと無関心で、夏なのに寒かった。
不思議なんだ。こんないつも通りの日常に君がいないことが。だから勘違いするんだよ。
つい君がまた昇降口の花壇に咲いたピンクの胡蝶蘭に水やりをしていて、照れ臭そうに挨拶してくれるんじゃないかって気になって、その度に君を失う感覚になって、それが終わらない。苦しくて、どうしようもなくて、怒りが湧く。
どうしてこんな悪夢を見せるのか。何も変わらない景色か、夏の暑さによる憂鬱か、君のいない現実を受け止めきれない自分のせいか。
君のいない現実がそうさせるなら、君のいるところに行けばいいだけの話だ。
それが僕にとって都合の良い出口であることは分かっているけど、この痛い現実に耐え続けたところで心の傷は時間と共に腐り、君への気持ちもいずれ麻痺してしまいそうで、
怖い。忘れたくないんだ。
そうだ。だからやっぱり君の側にいたい。
君が例え僕を望んでいなくても、
君にとって僕がちっぽけな存在だったとしても、
あの日救えなかった僕を君が憎んでいても、
万が一君が僕の幸せを願っていたとしてもだ。
君には何もできない。死んだら何もできない。死んでしまった君に何ができる。
決めることができるのは、生きる人間だけだ。僕しかいないんだ。
君のいる一つの世界が、僕の
日々薄まっていった色が濃く蘇った時、悲しみの色だけが残っている。
猫 カクヨミ @tanakajk
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