連作「幼子の祈り」

鶴崎 和明(つるさき かずあき)

長崎の鐘

今年もまた鐘が鳴る

平和を祈る鐘が鳴る

五十九年の時を経て

長崎の鐘はここに在る


あの日市民は奪われた

全ての物を奪われた

立って歩く権利さえ

何かを食べる権利さえ

人として生きる権利さえ

一つの屋根の下に住む

  ほんの小さな家族さえ

一つの都市の中にいる

  少し大きな市民さえ

全てのものは奪われた


人はこれを正義と言うが

人の命を奪ってもなお

  正義の名前を語れるか

人の権利を奪ってもなお

  正義の名前を語れるか


あの日

  数万の市民を殺し

あの日

  数十万の市民を地の果てへと追いつめた

この凶器と狂気を正義と言って

名もない市民のむくろは全て

  悪とさげすみ潰すのか


今年もまた鐘が鳴る

その鐘の音はただ一人

正義と悪の区別なく

祈りに依った区別なく

肌の織り成す区別なく

全ての人を全ての戦禍から逃すため

平和への願いを

  戦火の中へ投じる

今年もまた平和の土地で

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