6
不安になった理仁は、父親の腕を引っ張って縋った。
「なぁ、おとん……俺宇宙人なん? 血青いん?」
「まぁ、理仁の血は青いけども……」
また、変なこと言って。そう言ってもらうつもりだった理仁は、真顔で返された内容に自分の血管を見た。
「あ、青いの? 俺、転んだときに血赤かったけど……え、どっから青い血が出るん?」
「やっぱり、宇宙人やんか! 何が目的やねん!」
ギャーギャー騒ぐ息子二人の首根っこを両手で抑えた能人が呆れる。
「単なる比喩表現だ!」
「説明をしてください」
福島はどうにもきなくさい話に、事情を知っていそうな能人へと迫った。
「彼は我々夫婦……いえ五藤グループが預かっている子です」
自分の両親が実の両親ではない。理仁は、頭を殴られたようなショックでソファーに倒れ込んだ。
「ごめん、理仁。君が記憶障害だと診断を受けたので、何も言わずにいたんだ」
日本に来た頃、理仁は環境の変化とそれまでに受けた強いストレスが原因で倒れてしまったことがあった。目を覚ました時には、すべての記憶を失っていたのだ。そのこともあって、実母レーナの強い希望により、夫妻の実子として信じ込ませ、今日まで至っていた。
「なんや、そういうこと……」
自分が忘れていた記憶を他人から暴露される。一番やったらダメなことをやらかしたことに気づいた相成が狼狽える。
「ご、ごめんな! 理仁」
兄の狼狽にも気づかぬほどに、理仁は動揺していた。
「俺の両親どこにおんねん。レーナさんが母親なん?」
「そうだ。レーナ様がお前の母親だ」
もっと順序を追って説明するはずだったことを、知られてしまって、能人はどう説明したものかと頭を悩ませる。
奇妙な敬称がつく人物に、平野が怪訝そうな顔をする。
「レーナ様ですか?」
「えぇ、あぁ……妻の本家筋にあたる女性なんです」
説明を重ねようとした能人は、腕を引っ張る息子によろめいた。
「なぁ、おとん、お腹空いた! まだ帰られへんの?」
「そうだな……、すみません、この子を一晩預かってはもらえませんか?」
福島が顔を引きつらせて、眉をひくつかせる。
「うちは宿泊施設ではありません」
「あとで、上から説明をおろします。申し上げようがないのですが……彼の存在は最も秘匿すべき存在なのです」
「……どういう意味ですか」
厳しい顔をして睨む平野と福島に、能人は悲し気な表情を理仁へと向けた。
「そのままの意味です。このまま外へ出しては危険だということだけはわかってください」
よほどの事情がありそうな案件に、平野と福島が顔を見合わせた。
「相成、家の方に帰ってくれないかな。多分大丈夫だとは思うけど」
「え、えぇ? そんな危険な家に帰れって言うん?」
「真っすぐ帰りなさい。あぁ、家は大丈夫だから。善吉おじいちゃんが、彼を守ると決断した時点で、家の窓ガラスは全て防弾ガラスにしてあるから。セキュリティもしっかりしているしね」
タクシー代を渡す父親に、相成は紙も添えられていることに気づく。
「おじいちゃんが使っていた離れの地下に武器庫がある。万が一は、それを使うように指示を受けているから」
「……武器庫」
そんなものがあったのかと相成は言葉を失った。
家に帰って、門を開けようと彼は手が止まった。カードをかざさないと開かない門が、そもそも普通ではなかったのだ。家の窓を見れば確かに、叩けば鈍い音しか返ってこないほどに分厚そう。家や庭のそこかしこに、父の言葉が本当である証を垣間見ることができた。
「おかん、ただいま」
「相成! 怪我は?」
夫から連絡をもらい事情を把握したエレンは、一人で帰ってきた息子に思わず抱き着いた。
母親に抱きしめられた相成は、心配をかけたのだろうとそれを甘んじて受け入れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます