シェルノグリア

雪月花・寛

第1話 日常


はじめまして。

一話目を開いて頂けて幸いです。

スローペースの小説なのですが、

末永く読んで頂けるとありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。


=====================================


「道」


人々は歩く、己の二本の脚と共に、

時に力強く、時に弱々しく、迷い、

立ち止まりながら、人生という名の「道」を歩む。


人と人との「道」は友となり、仲間となり、交わりながら一つの大きな道となる。

違える「道」もあるだろう。

潰える「道」もあるだろう。

細くなり、太くなり、また細くなる。


どんなに辛くても、苦しくても、進め。己の脚で大地を踏みしめながら。

努力を惜しむな、時間を惜しめ、

その「道」は無限ではない、必ず終点があるのだ。


己を信じ、友を信じ、仲間を信じ、

己の「道」を進め。

その「道」で起きた事は総て己の財産である。


                          雪月花・寛



 3年前、突如として消息が掴めなくなった。

と、いっても骸が見つかった訳でもない。


かといって姿を見たとの情報も皆無。

死んでいるかもしれないし、どこかで生きているかもしれない。


どうして父さんは、いなくなってしまったのだろう?

見当すらつかない……。


父さんが使っていた神剣、グランゼミュル。

それだけが帰ってきている、なぜなのか?

それすら分からなかった。


歯の擦れるギシッとした嫌な音が、掌に食い込んだ爪の痛みと共に、こめかみの奥底で鳴り響く。


――必ず手掛かりを見つけてみせる……。


燃え盛る大炎の中に入れた岩石のように、

熱く、硬く、胸に刻みこむ。


何故って? 親を心配しない子供などいないから……。


そんな事はない! という人もいるだろうが、そうなった時に子供というものは、親を必ず心配するのだろう。


普段は口やかましいとか、むかつくとか、面倒くさいとか……、そんなことしか思わないだろうけどね。



窓にかかっているレースのカーテンが風に膨らみ、そして萎みながらユラユラしている。

その隙間からは金色の朝日が、静まり返った空間に、

闇を追い払いながら差し込んでいた。


起きてからずっと読み続けてきた、厚く重たい詩集を

パタンと閉じ、窓の外側へと瞳をずらす。



この時間の世界はまさに幻想的だ。

陽の光が辺り一面に広がり、朝露で湿った草花が、軽やかな風に吹かれている。

早朝だからだろう、歩いている人を見てとれない。


まだ家で眠っているのか? 

それとも朝食の用意をしているのだろうか?


辺りを漂う美味しそうでいて、どこか温まる匂いが、鼻を通り抜けては、胃袋を締め付けようとしていた。


――グゥ~‼


どうやら胃袋の虫も完全覚醒をしたらしい。

微かな香りに誘われて、腹減った~‼ 飯にしろ‼ 

と言わんばかりに、わがままな大声を出しながら、要求を突き立てて来ている。


まぁ、いつもの事なので特段気にはならない。

そんな人生の1ページにも満たない日常……

物心ついた時からの反復運動だった。



「人生か……」

まだ16歳の若造が呟く言葉ではないのかもしれない。だけども本当に色々な事があったのだ。


過去の様々な場面が痛いほど浮かんでくる。

良かった事も、悪かった事も……。



冷たくギシギシと鳴るイスに背を任せながら、ゆったりと瞼を落とす。

辺りが暗闇に覆われ、思い出がはじめる。


どうでもいいことも多いけどね。


俺の名はノルム=ジャルダン。

この街で産まれ、この街で育った。


小さい時から何をやっても並程度で、

未だかつて一番になったことはない……。


容姿にしてもそうだ、格好良いとも悪いと言われたこともなく、服装にしたって地味でも派手でもない。


背が高いわけでも低いわけでもない。

マジの一般ピープルだ。



ただ、どういう訳か周りにはいつも人が集まってくる。

意識しているつもりはないし、気を使ってもいない。

それなのに、だ。


「お前といると何故かやる気が出てくんだ、

もう一度がんばろうって。退屈もしねぇしな」

悪友は勝手に決めつけているようだった。


人望以外に取柄がないのではないか?

と、疑問が湧いてくるほど、自慢できることがない。


それでも身の丈に合わない、壮大な夢がある。

幼い頃、胸に描いた願望とでも言おうか、

飛べない鳥が空に憧れるかのように、堪え難い希望とも言えるだろう。

色あせることなく、心の奥底を巡っている。


いつか必ず立派な兵士になってやる‼


爪先から髪の毛の先端まで、総てを支配している夢想、と言っても過言では無いだろう。


実現するためにも、避けては通れないことがある。

あと数日で開催されるバトルフェス・イザリーに出場することだ。


平凡すぎる俺にとっては高い障壁としかいえない。

しかし、やる気が身体中を包んでいる。


待ち遠しくて、太陽が顔を出す前に目が覚めてしまった。

落ち着かなくて、詩集を読んでいたのもそのせいだろう。

まるで旅行を楽しみにする子供のようだ。


この時をどれほど心待ちにしていた事か……。


イザリーで勝ち残れば、王宮の兵士になれる。

だからこそ特訓を続けてきたのだ。

それこそ嵐の日でも、槍が降っていたとしてもだ。


念の為だけど、槍が降ってきたことはないよ。

え? そんなこと誰だってわかるって?

…………。

ですよね~‼


木剣の振り過ぎで、掌はマメだらけだったし、

それが潰れてグチャグチャにもなった。


そうなる度に包帯で保護をして、痛みに耐えながら繰り返し素振りを続ける。

しだいに皮膚が厚くなり、マメが出来なくなっていく。

そうなればしめたものだった。


その他にも、父の残した記録や本を読みあさる毎日。


教えてくれる人がいないのは明らかにマイナスだが、

剣の基礎だけを学ぶには充分すぎる代物だった。


一番苦しかったのは、走り込みや腕立て伏せなどの

単純なトレーニングで、一人だとすぐ嫌になる。

それでも続けられたのは目指すべき目標が、しっかりあったからだろう。


もちろん挫けそうになった時もある。

そんな時は、肩や太ももを痛いほど叩いて、


頑張れ――立派な兵士なるんだ‼

絶対! その一歩を踏み出すんだ‼

だから頑張れ‼

と自分を励ました。


歯を食いしばりながら目指して来たイザリーだ。

心躍り、熱を纏うのは仕方がないことだろう。


 

立派な兵士……。

俺にとっては父さんがそれにあたる。

何故ならば、この国の最高戦力の一角だったからだ。


メルガンティア王国三剣士……その筆頭を務めていた。

その3名の剣技は、大地を割り、天空を突き抜け、海原を切り裂くとまで言われている。


その力は幾千、幾万の兵士が束になっても遠く及ばず、盾にも壁にもならない。

そう噂される最強の兵士達だ。

だが、父さんの姿は見えない…………。


イザリーに勝つこと、それとは別に、少しでもいいから父さんの消息を掴むことも目標だ。


この街を訪れた商人や旅人に聞いたが、手掛かりは見つからなかった。

首都から来た兵士に聞いてもわからずじまいだった。


もしかしたら……もう……。

いや、そんなことはありえない‼

都合のいい願いなのはわかってる‼

でも……それでも、生きている可能性を信じるんだ‼


もしかしたら、家族に危険が及ぶような仕事に出ているだけかもしれないし、極秘任務に就いて、手紙すら送れないだけかもしれないのだ。


その情報を集めるだけでも無駄ではないだろう。

安否だけでも知りたい。


なにもわからないままなのは、どうしても我慢ならなかった。

父親がいないことに苦しんでいる妹。


夫が帰って来ないのに気丈に振る舞う母親。

見ているだけでやるせなかった。

だからこそ二人に生き死にだけでも伝えたい。


どちらかわからず、モヤモヤしながら生きるよりは

ずっとましだろう。


どちらに転んでも、前に進めるような気がする。

だからこそ目標の一つとしたのだ。


表の目標も裏の目標も、首都に行くことが絶対条件。

兵士になって首都で暮らせるようになれば、父の情報も集めやすいだろう。

少なくともこのジャハレーという街よりは……。


=====================================


ここまで読んで頂きありがとうございます。

動き出すのが遅く、読むのが大変だろうと思います。

できますればレビューを書いていただけると助かります。

よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る