追いコン

 四年生の二人の先輩の就職先も無事決まり、一人の先輩は卒業後に神奈川を離れることになるそうで、引っ越しの準備などの兼ね合いで少し早めの追い出しコンパを私たちの学年主催で行うことになった。


 今回はトモくんもジュースで参加。流石に大所帯の遊び系サークルとくらべると10分の1にも満たないバイクサークルだけど、全部で八人ともなると私の家での宅飲みという訳にもいかず、茅ヶ崎駅近くの小さな焼肉居酒屋を予約した。

 普段は発泡酒で十分美味しくやっているのだけど、こういう風情がある〝いい意味で小汚い〟居酒屋ではみんなホッピーで酔っぱらう。TPOは守る私たち。家飲みよりもやや安全マージンを残しながら楽しんだ。

 私や孝子はそこまでではないけど、トモくんなんかはほとんど交流が無い先輩たちなので少し緊張している様子だ。お酒を飲んで打ち解けるのもまだ出来ないしね。それでも初対面ってわけでもないので後半にはだいぶ打ち解けていた。バイクっていう共通言語のおかげだね。


 うちのサークルはバイクが好きっていうことが前提の集まりなので、男女の恋愛関連の話もなく、終始バイク談義がほとんど。いわゆる飲み会で女子に盛るようなメンツは一人もいない。最初の方は紳士的だと思っていたが、最近はみんなバイクばかりにかまけてて女の子とほとんど接したことがないタイプなのではないかと疑い始めている。特に宗則。あとは、ユキは我が道のオタク道を突き進むタイプだし、孝子はちょっといやかなり性格がキツいし、私は私で女扱いされるのが嫌いってイメージがついていることも原因かもしれない。もっとも私は、ことバイクに乗ることに関してのみ、女扱いされるのが嫌いなだけなんだけど。


 引っ越しをする先輩は全国に広がる大手バイク販売店に就職が決まったとかで、私と宗則は、車検なんかの時はお願いしますと社交辞令ではなく本気で頼んでいた。

 孝子のRS250はお父さんの知り合いの伝手で買っているので、重整備が必要な時には前オーナーの行っていたショップにお世話になれるし、ヒロシもトモくんも一応中古で購入したショップがある、ユキに関しては新車で購入と同時にお金をかけてカスタムまでしているので、軽整備に関してもちょっとした用事などの時にショップがやってくれることがあるという。

 どうしても個人で出来ることには限界があるので、行きつけのショップがあるっていうのはやはり安心感が違うなと正直思う。

 宗則くらい整備や改造が出来るとそういう気持ちは私より少ないのかな?


 最後は、宗則の前に部長を務めていた先輩から、今のご時世バイクに乗る人間も減ってきているから、サークルの存続に関してはなるようにしかならないし、もし二〜三年後になくなっていたとしてもおまえたちの代の所為ではないから気にするなよ、的なお言葉をいただいてお開きになった。


 バイクで来ているトモくんに乗せてけと絡む孝子をみんなで引き剥がし、徒歩組と電車組とに別れそれぞれ帰路につく。

 私たちの学年が卒業した時、バイクサークルに今のまま新入生の入部がなければ、ユキとトモくんの二人のみになってしまう。新入生でバイクに乗ってる子はどのくらいいるんだろう。そしてバイクに乗っていても、みんなでバイクの話をしたり一緒に整備をしたり一緒に走りに行ったりを楽しいと感じる子がいるのかどうか。

 かくいう私も、最初はツーリングとかに興味はなかったし、今だってそれほど好きなわけでもない。バイクは好きだけど、峠が好きとか旅が好きとかではないような。

 いつか宗則が言っていた私の父親の話。サンダルのような、それも只のサンダルではないお気に入りのサンダルのような付き合い方が一番しっくりくる。やはり私は父の娘なのか。


 嫌いなわけではないが、なぜか気持ちが反発してしまう。

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