ハイエナ2

 流石に今回は孝子ん家に手土産を持って伺った。


 ガレージでいくつか工具を貸してもらい、宗則にサポートをお願いして900SSのリアホイール周りを分解しはじめた。

 横には748Rに黙々とマッハボーイの取り付け作業をしている孝子の姿。


 何せ分解作業だけなのでさくさく進む。

 リアホイール、アクスルシャフト、リアブレーキ周り。カラーも含め車体についていた順番と向きを守りつつ、シャフトで一つにまとめる。念のため、分解前と分解時と要所要所スマホで写真を撮った。あっという間に作業は終わり、孝子のお父さんが車で運んでくれると申し出てくれたが、申し訳ないので当初の予定通りGPZのタンデム席に段ボールを敷いて平ゴムバンドで縛り付ける。

「宗則、今日この後家に来ない?」

 古本屋巡りのおかげで守備は上々だ。事前に行っていたGPZのワイドホイール化についての下調べもほぼ終わっている。宗則が言っていた問題以外に、GPZ特有の問題として、チェーンラインとチェーンサイズ合わせ、チェーンのフレームへの干渉、リアブレーキの固定の仕方マウント、車高調整、浮かんできたこれらの課題をクリアすれば無事装着出来ると思う。以上の点を踏まえて念の為、ホイール現物の採寸もしながら宗則と相談という名の答え合わせをしたい。

 そんな思いから、女子としては果たしてどうなんだろう? という台詞で宗則を誘った。


「ニンジャのホイールと比べようぜ」私の家に着いてからの宗則はいつになく積極的だ。すでに辺りは暗くなっているが、二人でGPZを囲んで騒音を立てないように細心の注意を払いながら小声で作業をする。工具と金属部品が奏でる音は意外に響くのだ。

 集合部より後ろのセンターパイプとサイレンサーを外し、純正のセンタースタンドを仮止めする。途中、集合部を外さなくてもよかったと気付いたがその時はすでに勢いで外した後だ。センタースタンドを起こした状態でリアホイールを外す。カラーやキャリパーマウントなど、スイングアーム内の状態を再現したままアクセルシャフトを通した状態にして室内に持ち込んだ。


 まず最初に、孝子の家でもらってきた900SSのホイールやカラー、ブレーキマウントなどを向きと順番がわかるように広げて置いていき、もう一度スマホで写真を撮る。同じようにさっきバラしたばかりのGPZのホイール周りの写真も撮る。整備をしているとカラーの形状や向きとかが後でわからなくなることがよくある。場合によって油性マーカーでその場しのぎのマーキングをすることもある。後でパーツクリーナーで拭けばすぐに落とせるし、落とし忘れていても何となくレーシーでかっこいい。GPZのように国産で古くて人気のある車種だとネット検索で画像を探すこともできるけど、900SSのように外車でやや古い車種ともなると慎重に行わないといけない。自然とこういう作業時の工夫が身についてくる。

 次に、ホイールが止まっている真ん中の軸、アクスルシャフトの直径の測定、なんだけど、もう既に900SSのリアホイールがここにあるので、そのままホイールにGPZのアクスルシャフトを差し込んでみるのが手っ取り早い。

 そして奇跡が起きた。


「あ、同じじゃない? コレ!」と真っ黒な手で穴に棒を差し込んで声が上ずる私。

「ほんとだ、まぁある程度は車重によってベアリングのサイズが近くなるんだろうけど」と言いながらカバンからノギスを出して念のため軸径を慎重に図る宗則。え、この人ノギスいつも持ち歩いてるの? そして宗則の計測結果でも径は同じ!

 家中探して出てきたステンレスの定規とL字型の定規を使ってホイールの中心までの距離を測っていく。宗則と私とで何回か測って平均値を取り誤差を少なくしていく。それぞれのカラーやキャリパーマウントの厚さも測れるところはできるだけノギスを使って正確に計測し、最後に足し算をする。わかりにくいので図に描いてみる。そこに数字を記入して二人で出した結論は、スイングアーム内の幅も同じという二回目の奇跡。


 ここからさらに具体的な問題をお酒と共に洗い出していく……。

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