夢
夜、といっても子供もまだ起きているような時間に大洗に着いた。
ユキ任せで全員の集合写真を撮り、宗則の言葉で今回のツーリングは解散になる訳だけど、宗則の最初の言葉は「どうする?」だった。私たちの回答は出発の時から決まっていたと思う。
「行こう!」たまたま私の返答だったけど、みんな同じ気持ちだ。
各々バイクのエンジンをかけて、宗則の先導、孝子のしんがりでいつもの千鳥走行が始まる。宗則、トモくん、私、ユキ、孝子、ヒロシの順で走り出す。本当はしんがりは最後尾のヒロシの筈なんだが、ヒロシが最後尾なのは役割があるわけではなく別枠。こればっかりは2ストライダーの宿命だろう。下道でのんびりだが、巧みに交通の流れを読みながら神奈川、私たちの通う大学の駐輪場までノンストップで走った。
最後は日を跨いでしまったが、いつもの駐輪場で宗則の「じゃあ、みんな、家に帰るまでが遠足なんで、気をつけて。おつかれっ」といういつもの言葉で解散となった。
その後、家に着いた私は荷物を玄関先に降ろして、革ジャンのままベッドにダイブした。本当に心地よい疲労感。身体から感じる風の匂い。いい夢しか見る気がしない。
お昼過ぎに目覚めて、グローブと革ジャンの隙間に出来た帯状の日焼け後を眺めながらシャワーを浴びる。汗の臭いと一緒に風の匂いも流されてしまったが、心の奥に点いた小さな火種は消えなかった。
北海道から帰るフェリーの中、いや宗谷岬を出発してからずっと頭の片隅で考えている夢みたいな野望がある。自分でチーム、いや福原さんはクラブって言ってたっけ。モーターサイクルクラブ。大学を卒業したら終わりじゃない、ずっとバイクを好きな仲間が集まる場所。もちろん物理的な場所じゃなくって、そういうコミュニティ。そんで、友達ってよりも仲間。そんな場所を自分で作りたい、私が私のクラブを作る。最初は私一人でいい。孝子たちや宗則たちには声をかけない。バイクを通してこれから出来る仲間たちと気が付いたら同じ看板で走っていた、そんなかっこいいのが理想。アメリカン、ツアラー、オフロード、スーパースポーツ、他にも私が知らない色んなバイクや考え方、年齢も性別もバラバラでいい。バイクが好きだったらいい。そして私が好きになれれば。そんな仲間達とみんなでいつまでもバカやっていたい。いつだってバイクの話をしていたい、考えていたい。バイクだけじゃなくてもいいけど、バイクの話にはいつだって真剣に付き合ってほしい、聞いて欲しいし聞いてあげたい。私の知ってることならなんだって教えるから、私の知らないことはなんだって教えて欲しい。そんな仲間が欲しい。同じように似通った気持ちのバイク乗りたちと出会いたい。
多分、福原さんが言っていたのは実際にクラブを作るって話じゃないと思う。私が自分で走り続けて答えを見つけろってことなんだろう。だけど10年後、20年後にどこかですれ違った時、驚いた福原さんの顔が見たい。私じゃなくても同じ看板の誰かでもいいんだ。だからクラブ名はもう決めてる。
〝GentleBreeze〟福原さんが一目でわかるように。
悩んだり、女だからとか男だからとか、そんな小さなことでムキになったり。そういう私はウジウジしていて好きじゃなかったけど、いつか私が福原さんのように、悩んでる若い子に何かを伝えられるような人になりたい。例えウジウジでも、その頃までずっと考えながら走り続けたなら、私にもきっとそれができる。
乗り続けて、走り続けて、転んだらまた直して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます