いざ銭湯へ、身体の脱脂洗浄。
ガソリンタンクの塗装に向けてまずは旧塗装の剥離から始めた。
新たな錆を発生させないよう金属地肌を下地塗装のサーフェーサーで覆うまでは一気にやりたい。
初日から翌日にかけてタンクの塗装剥離と剥離後に見つかった錆の除去をして、三日目からはサーフェーサー吹き付け。アッパーカウルとタンクと交互に行った。片方の乾燥待ちの間にもう片方の水研ぎ。お風呂場についている余程の雨続きでもない限り使わない浴室乾燥機能がかなり役に立った。来月の電気代の請求は恐いけど。
そしてパテ盛りの段階では「私、表面処理の才能あるかも」って思っていたけど、サーフェーサーを吹き付けると表面処理のアラが目立った。こういう時にどこまでも頑張れるのが職人で、問題ないところで折り合いをつけられるのがプロ、アラに気づかないで満足して終わらせるのが素人なんだろう。もちろん私は素人だけど、プロにどこまで迫ることができるのか挑戦したい。幸い時間は無限じゃないけどある方だし、根性も今のところはある。それでも、さすがに四日目、五日目は深夜帯にスプレーと水研ぎを一〜二回で終了し、続きは翌日大学から帰ってから作業することにした。この一週間、講義中の眠さは尋常じゃなかった。
金曜日、3限目が急遽なくなったので学食が込んでる時間をずらして昼食。学食には孝子とユキ。
「あんた臭くない?」会うや否や孝子の無遠慮なセリフに大いに思い当たる節がある私はTシャツの襟元をグイっと引っ張って、少しだけ脇の辺りの臭いを確かめる。苦い牛乳のような、確かにやばいかも。そういえば、結局塗装ブースからお風呂場へ現状復帰させた記憶はないなぁ。いくら冬場とはいえトータル何日お風呂に入ってないのだろうか?
「フェロモン系女子枠を狙おうかと」という私のボケに孝子とユキがほぼ同時に「発想が、オヤジ(孝)!/エロ同人誌(ユ)!」と突っ込む。
「すいません、部屋がガソリン臭くてそもそも自分の体臭に気づきませんでしたー」と孝子とユキに頭を下げる。
「部屋がガソリン臭いとどうしてそうなるのよ」という孝子。ごもっとも。
なので塗装用に風呂場を潰した流れを説明したら、二人に溜め息と共に肩をポンポンと叩かれ、女子勢みんなでスーパー銭湯に行く運びとなった。若干憐みの目で見られたような気がした。
早速どこに行こうかみんなで相談。大学を出てバイクで20分圏内なら二~三件思い付く。念のため駐輪場があるかどうかだけは下調べしてから決めた。バイクを止める場所の確保って車より大変だからね。
無事銭湯に着き受付を済ます。シャンプーやボディーソープは備え付けのもので充分だけど、タオルだけはレンタルした。なんだかんだで二千円くらいかかった。案外高くつくのね。
脱衣所で服を脱いで膝の傷をあらためて見た。瘡蓋もだいぶ小さくなっているし、マナー的には大丈夫な域でしょ。と自分に言い聞かせる。
「あんたびっこ引いてない?」と孝子。
「お医者さんはもう行ってないんですか?」とユキ。
「そもそも行ってない」などと答えながら、孝子・ユキ・私の順に横一列になって体を洗う。何順?
備え付けのボディソープで身体を洗うが、二人と比べて私の身体は全然泡立たない。ガソリンタンクの剥離と同じで二回くらいの反復作業で体を洗い終え、室内大浴場、電気風呂から露天、ドライサウナ、スチームサウナ、と三人でせわしなく移動し最後は再び露天に落ち着いた。
せっかく贅沢なお風呂(約一週間ぶり)に来ているのに、気が付くと頭の中は今後の修理プランや直ったら最初どこに走りに行こうかとか考えてしまう。昨夜吹いたサーフェーサーを帰ってから水研ぎしたい。そうしたら、次はいよいよウレタン缶スプレーブラックからのクリアー仕上げでフィニッシュとなる。
指先についたサーフェーサーもふやけてきれいに落ちた。
サーフェーサーが付いて灰色のマットなマニキュアが塗られた手を夕焼け空に向けて透かして眺める。数日後にはウレタンブラックにウレタンクリアと見事な艶のマニキュアが完成するだろう。
「ゴスロリでも着るかな」と空に向けて呟いた。
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