第七蹴 青春とは?

 京が教室で、悩みに悩んでいた。

(結局、俺は喧嘩をやめられていねぇ。なんだかんだちょくちょく不良どもをしばいちまってる。俺は普通の青春を謳歌したいだけなのに…)

 というような悩みである。

 とても深いため息をついて、深く眉間に皺を寄せる。

 そんな京を、鈴木と杉浦は首を傾げて眺めていた。

「伊吹のやつどーしたんだ?あんな眉間に皺寄せて。ちょっと失礼だけど、あいつ目つきそこそこ悪いからはっきりいって怖いぞ」

 鈴木がさらっとどストレートに失礼なことを言ってのけて、ぐでんと机にほっぺたをつける。

「まぁなぁ…」

 杉浦も特に訂正せずに、なんとなく頷いた。

「聞いてみるか?」

「聞いてみよう」

 うんと二人で頷いて、彼らは思い悩む京の元へと足を運んだ。

「へいへーい、伊吹くん。朝からそんな怖い顔しちゃってどーしたんだい?」

 ちゃらちゃらとテンション高めに鈴木が聞いた。京は若干ウザそうな顔をして鈴木をみる。

「ちょっと、悩みがあるんだ」

「ほほう、聞こうではないか」

 今度は杉浦が重々しく腕を組んで、耳を傾ける。

「青春って、なんだと思う?」

 京は至って真剣に聞いている。

「「青春」」

 二人は目を瞬かせておうむがえしする。

「ああ」

 もう一度言うが、京は本当の本当に、真面目に悩んでいる。本気と書いてマジと読む。

「…青春かぁ、恋愛とか?」

 それが伝わったかどうかはさておいて、杉浦が当たり障りのないことを言った。

「恋愛」

 今度は京がおうむがえしをする番だった。

「あとは部活を全力でやり切るとか」

「部活」

「それとバイトとか」

「バイト」

 挙げられるもののうち、京は部活しかやっていない。このままではまずいと、彼の本能が言っていた。

「バイト、してみるか」

「「え?」」

 京の呟きに、二人は目を丸くする。

「伊吹が」

「バイト」

 本当に、この二人は息がぴったりだと、京は思いながらうなずく。

「ああ」

 鈴木と杉浦はゆっくりと顔を見合わせて、同じようにゆっくりと頷き合った。

「大丈夫か?」

「心配だ」

「なんでだよ」

 思わず素で突っ込んでしまった京である。

「いやー、なんつーか…なぁ?」

「なぁ?」

 うんうんと、謎の頷き合いをする二人に、京はため息をつく。

「まぁ、なんだ。そんな今すぐなってわけじゃねぇからな。まずは探すのが第一優先だ」

 どうやら本気でバイトをするつもりらしい京に、杉浦がふむと真面目な顔をして腕を組んだ。

「…ちょっと聞いてみないとわからんけど」

 一拍おいて、杉浦が少しだけ笑った。

「うちのケーキ屋でバイトしてみるか?」

 その言葉に、鈴木が感心したような顔をして、京が嬉しそうに瞳を輝かせる。

「そりゃいいな。それなら初バイト気兼ねなくできそうだ」

「いいのか?」

「ああ。土日は忙しくて俺もほぼ強制的に手伝わされてるくらいだから、人手は欲しいだろうし。まぁ聞いてみてダメだったらごめんだけど。どーする?」

「よろしく頼みたい」

 京の言葉に、杉浦はグッと親指を立てて見せた。

 こうして、京の青春とはなんぞや事件が開幕した。

 

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