⑥
なかなか戻ってこない鈴木に、流石の杉浦も眉を寄せた。
「遅いな」
「ああ」
それにうなずいて、京は眉間にシワを寄せる。何かあったのか。
「俺、ちょっと様子見てくるっす!」
虎徹が小走りで河川敷を上がっていくのに、京もその背中を追った。
「俺も行ってくる。杉浦は鈴木と入れ違いになった時ように、ここに残っててくれ」
「わかった。頼んだぞー!」
それにうなずいて、二人は走り出した。
数人の不良たちにコンビニの裏で囲まれて、鈴木はほとほと困り果てていた。
(さぁてどーすっかな。うーん。相手を刺激するのもダメ、この状態で逃げるのもちょっときつい。喧嘩して勝つってのも、無理だしなぁ)
ううむと、悩むそぶりを見せる鈴木に、不良の一人がその胸ぐらを掴んだ。
「おい、何考えてんのか知らねぇけど、この状態でどうにかしようなんざ思うなよぉ?」
「あー」
正直別に、恐怖心はない。こういう連中は自分がやりたいことを見つけられずに燻っている可哀想な奴らだということを、知っているからだ。ただ焦りがあった。
へらりと笑う鈴木に、苛立ちを感じたのかその不良が拳を振り上げた。反射的に目をぎゅっとつむる。
一向に衝撃が来ない。
そっと目を開けると、可愛らしい猫のお面をつけた同じ歳くらいの男子が、不良の腕をぎりぎりと締め上げている光景が広がっていた。
「いってぇ!!」
ばっと腕を振り上げて、手首を庇う。
「なんでてめぇ!そんなお面なんてつけやがって…ふざけてんのか!?」
不良がお面を外そうと掴みかかろうとしたところで、男子はひょいとそれを避けた。そのままその襟を掴んで、ぐいっと自分の方へと引き寄せてから、背中を膝で思いっきり蹴った。
ゴリッという通常ならばしてはならない音がして、不良がその場に倒れた。
その光景を前に固まっていた他の不良たちが、怯えたようによくわからない叫び声をあげて脱兎の如く逃げていく。
鈴木はぽかんと口を開けて、逃げていく不良たちを黙って見送るお面の男子を見つめる。
(えっと、助けてもらった…んだよな?)
はっと我に帰って、鈴木は男子に近づく。
「助けてくれてあざっした!」
男子はこくりと無言でうなずいて、そのままくるりと背を向けてさっさとその場を立ち去ってしまった。
「あ、お礼…」
(何か奢りたいなって、思ったんだけど…)
お面といい、もしかしたら重度の人見知りなのかもしれない。
「また会えたらいいなぁ」
あの華麗なる喧嘩裁き、只者ではない。
ふむと一つうなずいて、再会を願う鈴木であった。
「鈴木さん!」
名前を呼ばれて、振り向くと虎徹がいた。
「おぉー、なんでここに?」
「鈴木さんが戻ってくるの遅かったんで、様子見に来たんす!何かあったんすか?」
首をかしげる虎徹に、なぜか鈴木は自慢げに胸をそらした。
「実はな、今不良たちに絡まれてたんだが、猫のお面被った俺と同い年くらいの男が、助けてくれたんだ。いやぁ、かっこよかった」
うんうんと何度もうなずく鈴木に、虎徹はキラキラと瞳を輝かせてうなずいた。
「ですよね!!」
「お、おう?」
なぜその場にいなかったはずの虎徹がこんなにも嬉しそうにうなずくのだろう。
胡乱げに眉を寄せる鈴木にはっとして、虎徹は曖昧に笑った。
「お、俺も会ってみたかったっす…!」
「おー、俺もまた会いたいなぁ」
うなずく鈴木に、虎徹は少し複雑そうな顔をする。
「…じゃあ、戻りましょう!兄貴も杉浦さんも待ってます」
「だな」
二人は、河川敷への道のりを肩を並べて歩き出した。
鈴木を助けた猫のお面を被った男子、
「…行ったか」
ふぅと息をついて、お面を外す。可愛らしい顔をした猫をみて、京は渋い顔をした。
正体を隠すためとはいえ、こんなものをつけていたと思うと複雑だ。
(…まぁ、結果的にはよかったんだろうが)
コンビニに入って、お面を捨てようとゴミ箱を開く。が、思いとどまってそのままカバンにしまった。今後ももしかしたら使うかもしれない。
ちなみにお面は近くにある100円均一ショップで購入してきたものだ。鈴木が絡まれているのをみて、そのまま飛び出していこうとした京に虎徹がバレたくないなら、とアドバイスをしてくれたのだ。
(後で礼を言っておくか)
そんなことを思いながら、京もまた二人を追って河川敷への道を歩き始めた。
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