②
現代文の授業中、京は暇そうに欠伸をしてから窓の外を眺める。グラウンドでは、体育の授業が行われていた。
(…どこのクラスだ?)
しばらく眺めていると、見たことのある顔を発見する。
(伊東先輩だ)
相変わらずチャラそうだ。なぜあんな見た目をしているんだろう。
(趣味か?)
伊東が友人たちと楽しそうに話している。そこに、教師がやってきた。教師が伊東に声をかけて、何やら話している。
それから少しして、教師が彼の背中をバシバシと叩いた。
(…なにやってんだ…?)
伊東がその行為に文句を言っているようだ。それを軽くあしらって、教師はその場に生徒を集める。
どうやら本日の競技はサッカーのようで、教師がサッカーボールを取り出して伊東に投げつけた。
彼は渋々といった様子でそれを受け取り、軽くリフティングを始める。どんどん難易度が上がっていき、見たことのないような技がくりなされる。そして、最後に離れた場所にあるサッカーゴールに向けてボールを蹴った。吸い込まれていくような綺麗なシュートに、その様子を見ていたクラスメイトたちが興奮したように伊東の周りに集まる。
「…すげぇ」
その光景を見ていた京が、ぼそりとつぶやいて、瞳を輝かせる。
「なぁにがすごいんだ?ん?」
低い声に、彼は肩を震わせて前を向く。担当教師の高田が、京を睨んでいた。
「今は現代文の授業中だ。そんなに体を動かしたいなら、今すぐ外に出て走ってきてもいいんだぞ?」
「…さーせん」
素直に謝罪する京に、彼はため息をついてから教卓へと戻っていった。それを見送りながら、視線を感じてそちらを見る。
鈴木が面白そうに笑いながら口パクをしてきた。
『どんまい』
と。
それに、京は若干の苛立ちを感じて、不機嫌そうにため息を吐きながら頬杖をつくのだった。
昼休み。京は鈴木のことを小突いた。
「いてっ」
鈍い痛みに、彼は自分の腕をさする。
「何すんだよ」
「お前があんなこと言うから、仕返しだ」
ふんと息をついて、彼は購入したパックのいちごオレを飲む。
「あんなこと?」
先程のやりとりを知らない杉浦が、首をかしげた。
「さっき、伊吹が高田に叱られてたろ?そんで、俺が口パクでどんまいって言ったんだ」
ふふんとなぜかドヤ顔で言う鈴木に、京は不満そうに眉間にシワを寄せる。
「若干イラッときた」
「それは伊吹が正しい。今度同じようなことがきっとあるだろうから、やり返してやれ」
無言でうなずく京。鈴木がむむっと眉間にシワを寄せた。
「なにおぅ!?」
「なんだよ」
杉浦が疲れたように息をついて言う。鈴木は唇を尖らせる。
「俺は授業中、結構真面目だ」
(そこなのか)
と、京は心の中でツッコミを入れる。
「…そうか」
うなずいて、彼は美代特製の卵焼きを食べる。もちろん、甘い卵焼きだ。
「あ、そーだ。日曜伊吹の家行く時、俺ゲーム持ってくな。一緒にやろーぜ」
鈴木が気を取り直した様子でそう言った。京は心の中で踊り始める。
友達と休日にゲーム。それは、彼の思い描いていた青春の1ページである。
「おー、いいな。俺も実家の菓子持ってくわ」
「楽しみだ」
一言言って、京は笑う。他の二人に、そんな京の様子に顔を見合わせて笑った。
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