④
既に昼食を済ませた生徒たちで賑わう校庭の端に設置されていたベンチに、三人は座った。
京が焼きそばパンを口に含む。
ふわふわとコッペパンでは考えられないほどの柔らかい食感と芳醇な小麦の香り。焼きそばの程よいソースの甘じょっぱい味付けが、口の中を蹂躙した。
「…うまい…」
しみじみとため息をつきながら、彼は呟く。それに、二人は満足げに笑って自分たちの分のパンも食べ始める。
「んーっ!やっぱうめぇなぁ、ここのパン!」
鈴木が言うと、杉浦が何度もうなずく。
「これだけでも、ここの高校入ってよかったって思うよな〜」
「…俺も、このパンを食ってここにきてよかったって思った」
京も少し遠慮がちにそう口にした。
「おうおう、そうだよなぁ!ここにゃいろんな良い場所があるぜ〜?」
「伊吹にはまだまだここの良さを知らせていかなくちゃな!」
それにうなずきかけて、京はぴくりと肩を動かし、反射的に手のひらを鈴木の顔の前に出した。その行動に首をかしげ、どうかしたのかと聞こうとしたときに、その手のひらの中に何かが音を立てて収まった。
「…なんだ?」
手の中に収まったそれを掴んで、京はじっとみる。
「野球ボール…」
「おぉーい、悪い!怪我しなかったか!?」
どうやら野球をしていた生徒が誤ってこちらにボールを打ってしまったらしい。
慌ててこちらに駆け寄ってくる男子生徒に、京はそれを手渡した。
「気をつけろよ」
「う、うっす!すんませんしたっ!」
特に怒ったつもりはなかったのだが。
逃げるようにその場を立ち去ってしまった相手に罪悪感を感じて、京は眉を寄せる。やはり目つきが悪いのは直した方がいいのかもしれない。
心の中で思って、鈴木を見る。
「怪我ねぇか」
「お、おう…」
問われて、彼は戸惑いながらもうなずく。
「悪い、急に視界遮っちまって」
「んなことはいいよ。お陰で助かったんだし。むしろありがとな」
「そうだそうだ〜。伊吹がいなかったらお前は今頃顔面潰れてたぞ。もっと感謝しろ」
杉浦がここぞとばかりに茶々を入れる。鈴木がむっと顔をしかめたが、事実なので何も言い返せない。
「わーってるつっの。感謝してます!」
「お…おう…」
人に表立って感謝されることがあまりなかった京は、どうすれば良いのかわからずに困惑気味にうなずいた。
「しっかし、よく今の止められたよなぁ。伊吹の運動神経はどうなってんだ」
「それなー。俺も思ったわ。絶対運動部入れよなー、お前」
「…ああ」
それに、少し考える。ないとは思うが、地元の連中が自分を探し出して喧嘩をふっかけてきた時、部活をしていたらその部員たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。そう考えてしまうと、最初は乗り気だった部活動への入部は少し気が引けた。
もそもそとパンを食べ進める。
「今日の放課後、楽しみにしてろよな、伊吹」
笑う杉浦に、京はあいまいにうなずいた。
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