喧嘩を辞めたい伊吹くん。
満月凪
第一蹴 転校
とまぁ、軽い説明は置いといて。
今日も今日とて、喧嘩を売られて買って圧勝してきた京は、家に帰って難しい顔をする父と、それとは反対に穏やかな顔をする母とを前にして、食卓を囲んでいた。
母、美代特製トンカツを頬張りながら、彼は目の前に座る難しい顔を保っている父、崇を睨め付ける。今日はいつになく無口である。つい先日警察に対して馬糞をぶちまけたのがバレたのだろうか。
(けどな、ありゃサツが悪りぃと思うぜ俺はよ。虐められてるガキが泣きついてきたってのに、呑気に缶コーヒーなんて飲みやがって。仕事しろ仕事)
そう、京は喧嘩こそするが心根はとても優しく筋が通った漢気溢れる熱い男なのである。曲がったことは大嫌いだ。
憤然と心の中で言い切っていると、崇が重々しく口を開いた。
「京」
低く威厳のある声音だ。崇は京がいくら大きな喧嘩をしても、どんなに世間一般からすれば悪いと言われることをしようとも、彼を叱ったことは一度もなかった。止めるどころか「それが自分で正しいと思うことならば、突き進め」と言うのだ。また、学校や警察から呼び出しがあっても、無言で頭を下げて全てを収めてくれる。
京は、そんな崇を素直に尊敬していた。自分の父親が崇のような人間で良かったとも思っている。
そんな崇が、自分に何かを言おうとしている。これは聞くしかあるまい。
「なんだよ、親父」
食べる手を止めて、じっと崇を見つめ返す。
「悪いが、仕事の都合で転勤になった。お前には転校してもらう」
思っても見なかった言葉に、彼は目を丸くする。
「転…校…」
その反応に、崇は申し訳なさそうに少しだけ目尻を下げる。
「嫌だろう。なんなら、お前一人でもこっちに残って…」
「いや、全くもって問題ない。どうせダチなんていやしねぇんだ、寄ってくんのはチンピラどもばっか。新しい土地に行けるってなら、大喜びだぜ」
にやりと嬉しそうに笑って言う息子に、崇はふむとどこかほっとしたようにうなずいた。
「転勤先はそう遠くない栃木だ。転校先も当然栃木の高校になる。安心しろ、お前の学力に合わせた県立高校だ。お前は今まで通り過ごしてくれて構わないからな」
それにうなずき、京は決心した。転校先では、二度と喧嘩をしない、と。
こうして、伊吹京の「喧嘩辞めるぞ大作戦」が始まったのである。
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