ダンボール日記

木枯 紅葉

男 瀬川雄二

大都会、東京。これと言って夢もなく、ただ田舎から出たいという気持ちだけで上京してきた。なんとなく就職し、なるように生きてきた。理想もないから、好意を抱く女と付き合い、気がつけば籍を入れていた。

両親とは五年以上前から疎遠だったので、特に結婚の報告の入れていなかった。出来の良かった田舎の兄は農家を継ぎ、両親ともに俺のことなんか歯牙にもかけていなかったからだ。事実上親子の縁など切れたも同然だった。

…今から考えると、これが人生最大のミスだったのかもしれない。

勤めていた会社が、倒産したのだ。

これだけではピンと来ないかもしれないが。

俺のような大した学歴もない人間を、新卒でもなく雇ってくれる企業だった。特に過酷すぎるわけでもなく、かと言って楽ができるわけでもなく。ただただ流されるように勤めてきた。今になって考えると、社内の誰もが操り人形のように動いていたように思う。

モチベーションも何も持ち合わせていない御社は、時代という名の強風に吹かれてあっという間に吹き飛ばされてしまったのである。

いつものように家路につくと、玄関には知らない男物の靴が置いてあったのだ。天…大体の察しがついてしまう怖かった。あろう事か、愛していた、いや、一方的に愛してくれていたはずの女にまで裏切られてしまったのだった。

あろう事か女は出ていくのではなく、俺を追い出そうとしたのだ。財力も妻も失ってしまった俺の末路は悲惨なものだった。

結局のところ、証拠不十分で妻の不倫も認められず、それどころか有らぬことをでっち上げられ、慰謝料まで請求されてしまったのだ。いつも通りの生活すらままならないというのに……。

カネも女も、仕事も住処も、何もかも失うのはあっという間だった。

逃げるように今のアパートを引き払い、何もかも放り投げた。


もう俺には何も残っちゃいない。

不思議と涙も出なかった。最悪であることに変わりはない。だが、もう失うものだって何もない。

この日記は、何も持たない俺の数奇な人生を綴った一種の『物語』である。

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