第4話⑤ 脚本アイデア会議 その2
そして、四人でうんうんと唸ったり、色んな台本や原作を研究したりすること二時間。
どうやら全員、細かい部分はともかく、ある程度の流れやイメージはできたらしい。あとはそれぞれの案を互いに発表し合うだけとなった。
しかし、この時俺たちは肝心なことを忘れていた。
「えーと、それじゃあ誰から行く……?」
俺がやんわりと提案してみるが、わくわくと期待感MAXのエリスはともかく、真岡と桐生は二人して、ぶんぶんと勢いよく首を左右に振った。トップバッターは断固として拒否するつもりらしい。
確かに、冷静に考えれば、自分の妄想をアウトプットしたうえで垂れ流すわけで、めちゃくちゃ恥ずかしい。ましてや、話のベースはロミジュリという、コテコテのラブストーリーである。自分の恋愛観や憧れ、内に秘めた理想なんかが如実に話に反映されてしまうといっても過言ではない。やべ……さっきはテンションに任せて筆を走らせちまったが、俺は『これ』をこいつらに見せるのか?
(おい、真岡! 頼む! シナリオ作りは本業だろ!? ロミジュリにしようなんて言ったのもおまえだろ!?)
俺はアイコンタクトと念話だけで、前の席にいる真岡に先陣を切るようにアピールしてみる。
(ぜっ、た、い、イ、ヤ、だ!)
何を言いたのかはすぐに伝わったようだ。だが、真岡は口パクだけでそれを猛烈に否定してくる。あ、バカ。そんなことしたら――――。
「……悠斗、何してるのかなー?」
隣にいるエリスにニコッとした笑顔で覗き込まれた。だが、口角は上げていても、目はまったく笑っていない。……なんだか、この前駅で真岡と会った時よりも、また一段と迫力が増している気がする。
最近気づいたことだが、エリスは怒っていると語尾が長くなる傾向にある。あと背筋が冷たい。
「あ、いや、この提案をしたのが真岡だから、最初に手を上げてくれてって、目線で頼んだだけだ」
なので、下手な嘘や誤魔化しは愚の骨頂。俺は正直にゲロった。
「ふーん、それでわかっちゃうんだ……。何も言わなくても二人は通じ合ってるんだねー。日本の『以心伝心』ってやつかなー?」
だが、エリスはそれさえもお気に召さなかったらしく、俺をジト目で睨んでくる。……い、いや、これはそんな大げさな話じゃないぞ。自分の考えをしゃべるのが苦手な日陰者なら、みんなが持つシンパシーである。
「「「「…………」」」」
しばらく全員の間で沈黙が続く。誰も切り出そうとしない。一度こういう微妙な雰囲気になってしまうと、どんどん意見が言い出しづらくなってしまう。
すると、やがてエリスは、「……もう、みんなシャイなんだから」と、珍しく呆れたような溜息をついた。
これは――――。
「じゃあ、最初にわたしから……」
「エリス」
俺は遮るように言った。
「? 悠斗、どうしたの?」
「……ごめん。これじゃいつまでも話進まないよな。だから、まず俺からやるよ」
「悠斗……」
今の俺たちは、いつかエリスが言っていた、ディベートが苦手な日本の学生っぽさを見事に露呈してしまっている。彼女からしたら、こういう不毛な時間をもどかしく感じてしまうんだろう。
「うん、ありがとう、悠斗。……でも、ひょっとして、今わたしが少しイライラしちゃったから気を遣ってくれたの?」
「いや、いいよ。遠慮してなくていいって言ったのは俺だし、エリスにばかり我慢させちゃうのは違うと思うしな」
「悠斗……」
「代わりと言っちゃなんだけど……笑うなよ?」
あまりシリアスになりすぎないよう、俺は軽く茶化してみる。すると、エリスは「ふふっ」と微笑んだ。
「うん。悠斗の作った物語、聞きたい。あ、でも、笑わないでっていうのは約束できないかな? それは悠斗のお話の次第、だよ?」
「……エリス、本当にそのへん正直だよなあ」
「だって嘘をつくとか、できない約束をするのはよくないよ、悠斗? えへへ」
エリスのその大きな瞳が細められる。今度はさっきとは違う、優しさに満ちた笑みだった。
そんな俺たちに送られる二つのねっとりとした視線。
「……おかしいわね。何で二人はいつのまにイチャついてるのかしら?」
「やっぱり女は素直なのが一番なのかな……。うう、あたしのバカ……」
×××
というわけで、俺は『ぼくのかんがえた最強のロミジュリ』(諸説あり)を三人に披露してみせた。
「――――っていう設定と流れにしてみたんだが……ど、どうだ?」
俺はおっかなびっくり感想を尋ねる。ちくしょう、結局ずっと、顔から火が出るほど恥ずかしかったじゃねえか。
だが、俺の羞恥に耐えた盛大な告白(?)にもかかわらず、
「ぷっ……」
最初に堪え切れずに吹き出したのは誰だったか(いや、丸わかりだけど)。
「あははははは!! 柏崎、何だよそりゃあ!? 乙女か!?」
「ちょ、ちょっと笑いすぎよ真岡さん! で、でも……悠君、そういう少女漫画みたいな話が好きなの? ふ、ふふっ……」
「この前のお出かけの時も思ったけど、悠斗ってホントにロマンチストだよね。すっごく可愛いよ!」
……俺の頬は火が出るどころか、二つ合わさって炎が噴射されていた。
今すぐ消えちゃいたいなあ……
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