第2話④ からかい好きの生徒会長
「えっと……噂って何ですか?」
俺は、上級生にして容姿端麗な生徒会長、高梨瑠璃さんにそう尋ねる。
自慢ではないが、俺は学校で噂になったことなど人生で一度もない(ホントに自慢にならねえな)。クラスの女子にクスクスと笑われたトラウマなら何度もあるが、さすがに校内全体にまでどうこう、というのはない。陰キャでモブ、RPGの村人AにしてネトゲのNPC。そんな立ち位置をタイムリープのごとく繰り返してきた俺に噂……だと?
高梨会長は面白そうに手を振る。
「君、今話題の美少女留学生の保護者的な感じの男の子なんでしょ? ちらほらそういう話が聞こえてくるのよね」
……やっぱりそれか。
もし万が一、いや億が一、今の俺が学校で話題に上るとしたら、エリス絡みしかないとは思っていたが。でも――――。
「エ、エリスの保護者? 俺がですか?」
「違うの? そのエリスって子のホームステイ先が君の家、って話を2年生たちから聞いたんだけど」
「え? あ、いや、それは……」
……微妙に事実が錯綜している。恭弥のフォローが変な形で広まってしまっているらしい。
だが、ある意味ではこのままの方がいいのかもしれない、と思い直す。俺みたいな低階層男子と高貴な美少女であるエリスに接点があったとしても、それが単に彼女の下宿先、という理由ならばそこまで違和感はない。エリスに変な負担をかけるリスクも減らせるはずだ。
しかし、俺のそんな深淵な思考を、お構いなしに無視する奴がいた。
「違いますよ、会長。エリスがホームステイしてるのは私の実家です。柏崎君はそこでアルバイトをしてるだけですよ」
桐生である。なぜか桐生は、まだ俺に生暖かい視線を送りつつ、事実を淡々と口にした。
「……千秋? その、どういうことなの? あなた、そんなこと一言も言ってなかったじゃない」
高梨会長は小さく首を傾げる。
「実はですね……」
×××
桐生は、これまでの経緯を高梨会長に説明した。もちろん、エリスと自分がはとこ同士、という事実を含めてだ。
「ふーん……そういうことだったのね。正直驚いたわ。千秋と美夏先輩が、そのエリスさんと親戚だったなんて。そして、柏崎くんは美夏先輩からその子のことを頼まれてる、と」
高梨会長は顎に手を当てながら、納得したばかりに深く頷いた。まあ、今の高梨会長の言葉についても、俺としては新たな疑問が湧いてしまうわけだが。
「高梨会長は桐生だけじゃなくて、美夏さんのことも知っているんですか?」
「うん、私は内部進学組だから。私が中学の生徒会長をしてた時、高校3年生だった美夏先輩には色々お世話になったの。まさに杜和祭とかでね」
「へえ……」
やや今さら感はあるが、学校法人庄本学園は中高一貫の私立校でもある。ただし、高等部に比べると中等部の学生はかなり少ない。7割くらいは高校からの入学者だ。俺、真岡、桐生、恭弥、司、美夏さんと俺の周囲全員が外部進学組である。
美夏さんは今でもそうだが、非常にわかりやすい陽キャなリア充だ。
恭弥に嫌々連れられてきた3年前の杜和祭、彼女は軽音部のボーカルとして、その綺麗な歌声でメインステージを大いに盛り上げていたことをよく覚えている。
そして、その美夏さんを熱い視線で見つめる恭弥も。
俺たちの遠くで、自分の姉にどこか複雑な眼差しを送る桐生の横顔も。
……まあ、それは今はいい。
ガラにもなく苦み成分多めな記憶を思い返していると、高梨会長は今の話で当然行き着くであろう疑問を素直に口にした。
「でも……今の話からすると、柏崎くんと千秋は幼なじみなのよね?」
「え、ええ、まあ」
「……一応、ですけど」
その問いに、俺と桐生も歯切れ悪く肯定する。すると、高梨会長の瞳がキラリと怪しく光った……ような気がした。
「それなのに、お互いに苗字呼びなの? 何だかよそよそしくない?」
「ま、まあ、小さい頃の話ですし。男子と女子の幼なじみならこんなもんじゃないですかね」
「でも柏崎くん、たった今、美夏先輩のことは下の名前で呼んでたわよね?」
「う……」
そして、痛い所を立て続けに突いてくる。ってか、この人楽しんでないか……?
「……会長。私と柏崎君は小さい頃から知ってるってだけで、特別仲がいいわけじゃないですよ。……確かに姉には多少、懐いてるみたいですけど」
桐生も黙っていられなくなったのか、高梨会長を窘めるように言った。
……だが、桐生の言葉に微妙に棘があるような気がしたのは、俺の自意識過剰だろうか。
「でも、柏崎くんを準備委員に推薦したいって言ったの、千秋じゃない。事務仕事なら優秀な友達がいるって。しかも結構自信満々に」
「……へ?」
「ちょ、ちょっと会長!? 余計なこと言わないでください!」
さっきまでの冷静な姿はどこへやら。桐生は顔を真っ赤にして反論する。
「……桐生?」
「ち、違うわよ。私はお姉ちゃんから、柏崎君は店の仕事がよくできるって聞いてたから……。そ、それだけよ!」
桐生は一方的にそう言うと、つーんと顔をそむけてしまった。
その慌てぶりを見た高梨会長は、ふふっと蠱惑的に笑う。
……この人、ひょっとして。
「話はすごーく変わるんだけど、柏崎くんって、そのエリスさんって子と仲いいの?」
「……は?」
この人、俺のすぐそばにいる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます