第41話 懐かしむMagic Loader
サーイは次に攻略すべき魔物の巣窟について、地図1枚と、助言を記した紙を2枚、ベルツェックルから渡されていた。
1枚目の助言にはこう書いてある。
『浮島を越え、ウィスタ大陸に入ってすぐのところにライディアの洞窟はある。洞窟内は凍り付いており、主に氷系列の魔物がいる。
そして、もう1枚には、こんなことが書いてあった。
『ただ、ひとつ約束してほしいことがある。サーイの捜している愛する家族……彼もまたマジック・ローダーであると聞いたが、そのことを他のマジック・ローダーには絶対に伝えないでほしい』
まず、その町にいるというマジック・ローダーに挨拶をしなければ、と思い、エギトゥヤムにやってきた。
「あの女の人、誰だろう……」
町には子供たちがいたが、こちらを怪訝そうな目で見ている。
「ふん、来たのか」
と声をかけるものがあった。
「お前が『新たな希望』とやらなのか?」
「……え、何のことでしょうか」
「知らないのか? お前の親分がこんなもんを送りつけてきた」
といって、彼は紙を取り出した。
『拝啓、マジック・ローダー諸君、ご無沙汰しているが、ウィスタ大陸の様子はいかがだろうか。今回、とてもよいお知らせが2つある。1つ目は私事で恐縮だが、エグゼルアの"女神"が、私の新しい伴侶となってくれたこと。そして2つ目。我がガイトゾルフに、この世界を真の平和へと導く、新たな希望となる仲間が加わったことだ。その名はサーイ・ライガ。前例のない強大な魔力の持ち主だ。だが、いくら魔力があったとてマジック・ローダーではない。同人に必要な魔法を与えられるよう、関係のマジック・ローダーに要請する。 ―― ルカンドマルア国王・ベルツェックル』
「はい、ベルツェックル様は、親書を送るとおっしゃっていましたから……あなたが、この町のマジック・ローダーですか?」
「そうだ、俺の名はアシジーモ。よろしく、といいたいところなんだが、俺は正直、こんなもんを一方的に送り付けてくる奴ら、そしてそこに属している連中などとは関わりたくない」
「なぜ……ですか?」
サーイはそう聞いてはみたものの、心の中では「さもありなん」とも思った。
「そう聞くのか。ならば、質問を質問で返すという、最悪の対応をしてやる。お前、そもそもここに何しに来た……そこに持っている紙は何だ?」
サーイは、ベルツェックルから渡された地図と、1枚目の助言をアシジーモに渡した。2枚目の助言は隠しておいた。
「……ライディアの洞窟か。確かにここから近い。……もうひとつ聞いていいか?」
「何でしょうか」
「この、『手強い相手もいるが』という部分だが、なぜ手強いか、わかるか?」
「……え?」
サーイが困惑したのを見て、アシジーモは語気を強めた。
「そいつが、善の魔物だからだ! 善の魔物を攻撃すると……」
「悪の魔物よりひどい目に遭う」サーイは遮った。
「……知ってるのか?」
「おじいちゃんから聞きました」
「……おじいちゃん?」
「私は、大切なおじいちゃんを魔物にさらわれたのです。どこかに捕らえられているはずなんです」
「……それで、ガイトゾルフをかって出たと?」
「はい」
「そうか……事情はともあれ、お前に持たせられる魔法はこれだけだ」
といってアシジーモが杖を取り出した。
「これは、魔物の善悪が判定できる……」
「あ、ソルブラスですか?」
「……! それも知っているのか?」
アシジーモが驚いたのを見て、先だってのベルツェックルの奇妙な態度の原因がわかった気がした。
「もしかして……ガイトゾルフの間でソルブラスは」
「そうだ。この魔法はガイトゾルフの間ではタブーとされるもの。奴らの考えはあくまで魔物=悪。魔物と見たら見境なく攻撃するのが常套手段だ」
「私、それ欲しかったんです。いただけるんですか?」
「ガイトゾルフからそんな言葉が出るなんて……チッ、お前が一番欲しがらないものをセレクトしたつもりが、喜ばれるとはな」
「私は、おじいちゃんに会えれば、それでいいんです。無駄に戦って危険な目には遭いたくない」
「……そうか、それならこれは知ってるか?」
「何ですか?」
「善の魔物を攻撃すると、ひどい反撃を喰らうだけでない。もし攻撃してその魔物を絶命まで至らせたら……攻撃した者の心はたちどころに荒んでいくんだ」
ここでサーイは、思い出した――あまり思い出してくはなかったが――サジェレスタの村人たちから追い出される直前の、ギールの言葉。
≪さっきから頭ごなしに、魔物が魔物がって、魔物が全員悪者って、本当にそうなのか?≫
それに対して、村人たちの言葉。彼らは村を襲う魔物たちと常に戦っていた。
≪お、何だ? 見張りの分際で≫
≪魔物は悪いに決まってるだろ! そんなことだから、魔物の一匹も倒せないんだ!≫
彼らも幾度の戦闘の過程で善の魔物を殺め、心が荒み、魔物=悪が刷り込まれたのか。しかし幸い、見張りだったギールは……
「幸い、新米ガイトゾルフのお前は、まだそうなっていないようだな……どうした? なんか考えごとか?」
アシジーモに話しかけられてはっとした。
「あ、すみません……」
「さあ、持っていけ」
アシジーモはソルブラスをサーイに手渡した。
「ありがとうございます!」
「知っているかもしれないが、これは、善の魔物なら青、悪の魔物なら赤に光る。半減期は本来数日だが、改良を重ねて30日程度まで延ばせた……あ、そうだ、完全に余談なんだが、とあるヤツに使わせたら、善だろうが悪だろうが関係なく、赤と青がランダムに光るだけだった、というのがいてな……ハハハッ、まあガイトゾルフになるようなお前ならそういうおマヌケなことにはならんだろうがな」
そのとき、アシジーモは初めて笑った……古い友を懐かしむような、そんな感じだった。
サーイが村を出ようとした時
「あっ!」とアシジーモが声を上げた。
「レディウスに反応が……またあのドラゴンか……」
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