第19話 さらわれたMagic Loader

 紗愛が魔物の村に駆けこんでくると、メディは、元気に出迎えようとしたが、

「あらー、サーイさん、ちょおどいいところに……あれあれ、どこ行くのー?」

 そのまま、メディのもとを通り過ぎて、向かった先はツェノイ――帰還装置――であった。


「あららー、サーイさん、勘がいい! そおそお、完せえしたんよ! ツェノイ、それ言おおと思ってたんよ」

 

 紗愛は、その装置の前で体中を震わせ、目からは、大粒の涙を落としながら、フィレクトの杖を構えた。


「……え!?!」メディが驚いた。


 その杖から出た炎は、瞬く間にツェノイを包み、一瞬で灰だけになってしまった。


「ちょ……どおいうこと……え、どこ行くの??」


 サーイは魔物の村をも飛び出し、どこともつかない方向へ走って行った。


 その走る先に、三たび現れたのは、あの「女神」だった。


「サーイ、私たちは、もう永くはないのです、あなたが来てくれなければ、我々は滅ぼされるでしょう……あなたは、十分強くなりました」

 サーイは、泣きながら答えた。

「……ごめんなさい、私、もう、何が……何だが……こんな目に遭わせるために、あなたは……私を?」

「あなたは、今、失意のうちにあるかもしれません……ですが、これからあなたが受ける栄光に比べれば、それは取るに足らないものです」

 今度は、怒りを込めて叫んだ。

「どういうことですか! ……私の大事な、おじいちゃんが、村の人たちが、取るに足らないもの? 私のせいで、みんなおかしくなってしまった……私さえいなければ、ギールさんが村の人たちが争うことも、セーバス、シーバスにキライだと言わせることも……なかったのに」

 どんな感情を込めても、女神の表情に変化はなかった。


 そのとき、サーイの叫び声を頼りに、メディとマージが現れた。だが、そのただならぬ様子に、声をかけることはできなかった。メディは小声で、

「あれが、めがみ、さま……?」と呟いた。


「とにかく、私たちは待っています。あなたをガイトゾルフとして迎えることを。急いでください……」

「ガイトゾルフだと!?」マージが叫んだ。その瞬間、「女神」は姿を消した。


「サーイ、今の、聞いたか、ガイトゾルフはな……」

「来ないで!」サーイはマージに怒鳴った。


「……おじいちゃんもおじいちゃんよ! 村の人たちが、みんな私を巡って喧嘩しているってのに……仲直りさせるどころか、一方に味方して……さっきも、私の気持ちなんか知らないで、村を捨てて、地球に帰れだなんてさ……私、おじいちゃんを本当の家族だと思ってたのに、こんなにわかってもらえてなかったなんて」

「すまなかった……でも、これだけは言って……」

「帰ってよ!」


「マージさん、今はダメっぽいよ……ちょっと頭冷えるまで待ってあげて」メディはそっと耳打ちした。

 二人は仕方なく魔物の村へ引き返した。


 サーイは、もう走ることもできず、その場でしゃがみこんだ……だが、照りつける太陽に耐えられず、ひとまず木陰で休もうとした。


 だがその時、向こうから、青いドラゴン――この前、メディを襲ったドラゴン――が、ものすごい速さで上空を飛んできた。魔物の村の方へ向かっていった。

 またメディが襲われるかもしれない、と思ったサーイは、村の方へ戻ろうとした。しかし、そう思う前に、ドラゴンは再びこちらに向かって飛来してきたのだった。

 

 そのするどい爪は、人をつかんでいた……魔物ではなく、人。


「サーイ!!」


 マージであった。


「おじいちゃん!」


 という間もなく、ドラゴンは空高く飛び去っていった。

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