第15話 暗記は得意?
「……左、左右左、右左左、右右左、右右左、右左左」
帰り道。紗愛とマージは来た時と逆順に、逆の方向で分岐を辿って、森の入り口に戻り、サジェレスタに向かっていた。
メディの元気な姿を見て来た紗愛は、これまでにないくらい上機嫌だった。
「ねえ、おじいちゃん」
「何だ?」
「私ね、暗記が得意なのよ。『魔物の村』への行き方、
「本当か? じゃあ試してみようか」
マージは、行き方の紙を伏せて、紗愛に聞いた。
「ええと……左右左、右左左……」
「ハハハ、のっけから間違ってるぞ、1個目は右だ!」
「ええー! 自信あったのにー!」
―――――†―――――
もう少しで村の入り口というところまで来た。
「あっ! おじいちゃん!」
「どうした?」
「あの木、見て!」
紗愛が指した先にあった木、それは、根っこを動かして歩くことができる、魔物の木だった。
「大丈夫、あれは善の魔物。こちらから攻撃をしなければ大人しい奴だが……間違って攻撃してしまうと、悪の魔物よりひどい目に遭う」
「本当?」
「ソルブラスを使ってみればわかる」
魔物の村を出るときに、デウザがお土産にとソルブラスの杖をくれたのだった。
使ってみると、
……青。
「あ、本当だ!」
「わかっただろう」
「ねえおじいちゃん、もし、悪い魔物だったら何色に……」
そう言いかけたところで、あの双子の兄弟の一人、セーバスが慌ててこちらに走ってきた。
「マージじいちゃん! サーイお姉ちゃん!」
「どうしたの?」
「マモノが、襲ってきてる!」
村に魔物の大群が押し寄せている、まさにただ中だった。
奴らの中は、言葉を話すことができる者がいた。村人たちに脅しをかけていた。
「へっへっへ、大人しく貢ぎ物を渡すんだな」
そう言われている村人たちは厳しい顔をしていた。
奴らが言う『貢ぎ物』とは食料などである。村で収穫した作物などは常に狙われているのだった。
紗愛が奴らに向けてソルブラスを使ってみると、
……赤。
「みんな!」
紗愛が声をかけると、それまで恐れを抱いていた村人たちの表情が一変した。
「おっと、残念だったな。いきがるのはそこまでだ」村人たちは魔物たちに言い放った。
「何だと?」
「うちの『英雄』が到着した。お前らなんか彼女にかかれば一撃だ……」
「……こいつらは、混成群だ!」
マージが言った。
「混成群?」
それは、異なる種族同士で結成された魔物のことだった。
紗愛はそれぞれの相手に合わせて杖を発動しようとするが、
「サーイ! それはサガムじゃない! フィレクトだ!」
ここ数日間、頑張って魔物と属性、有効な魔法の組み合わせを、得意の暗記力で覚えたつもりだったが、多くの種族が次々と現れ、どの魔法で攻撃すればいいか咄嗟に出てこなかった。
結局、村の人々総出で魔物たちは斥けたが、食料はあらかた盗まれ、家々も破壊されてしまったのだ。
―――――†―――――
「何をやっている!」
村人たちの怒りの矛先が、紗愛に向けられた。
「うちの英雄ともあろう者が、あの程度の魔物たちもやっつけられないとは!」
「……申し訳ありません」
紗愛が
「静まれ!」
このまえと同じ流れで、マージが一喝した。
「いつから、サーイがうちの英雄になったんだ!?」
「現に、うちの村に住んでいるじゃないですか!」
「ただで住ませてやってんだから、ちゃんと働いてもらわないと……」
「相変わらず『奴』もひっとらえてこないし……」
村人たちがぶつぶつ言い始めたので、マージは勢い余って言った。
「黙れ! そんなこと言ってていいのか? まもなく、サーイは転移元に帰還するんだぞ!」
「何ですって?」村人たちが驚愕の声を上げた。
「どうやってそんなこと! 誰がそんなこと仕掛けたんですか!」
「……それを聞いてどうするつもりだ」
「もちろん、その企てを止めに行きます!」
「そうだ! サーイはもはや、我々とって欠かせない存在だ!」
「彼女がいなくなったら、この村はすぐ魔物に滅ぼされるだろう!」
などと声が上がった。
しかし、そのときギールが、
「何言ってんだ、俺たちだけの都合で彼女を引きとどめるなんで、傲慢にもほどがあるぞ!」と言い、他の人からも「そうだ!」という声があがった。
マージも「すまない、サーイは我々のものじゃないんだ、なんとか還してあげたい、理解してもらえないだろうか」と懇願すると、
「いくらマージ様の頼みといえど、できません!」と言い返す者や
「こいつ、マージ様の命令を断るのか!」と突っかかる者。
……紗愛は、村の外れから、その様子を眺めていた。
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