第16話 追放するMagic Loaders
次の日。どうやら滅んでいなかったようだ。俺が魔法使えなくてよかったー。
俺らはカルザーナの家に一晩泊めてもらった(豪邸だから部屋いっぱい余ってた)。さて、朝起きると、アシジーモから、
「カギン、今日はお前に最後のマジック・ローダーを紹介する」と言われて、
イサキスからも「そうだ、これで最後だぞ!」と念押され、
カルザーナまで「最後のマジック・ローダーからも、使える魔法を見つけてもらうといいわね」
と、「最後」である、これ以上はもういない、ということをこれでもかと強調されてしまった。コイツらわざとらしいなー、と思ったが反論すると面倒になることはわかってたので、
「ありがとう」
とだけ言って、ザガリスタを後にした。
後にした、といってもこのマジック・ローダー三人衆、みんなついてきたのだ。ああ、俺が「最後」の村で「最後」の人に変なこと聞かないかって監視してるな、と思ったけどそれも黙っていた。雰囲気がよろしくないのでバウザスに乗って彼らより先に村へ向かった。
さて、ザガリスタから南に下ると、ほどなくその「最後」のマジック・ローダーがいる村に着いた。あれ、なんかゾルゾーサみたいな雰囲気だ。今までのちゃんとした家とかがなくて、なんか木の枝を積み上げたような家とか、崖に横穴を掘っただけの家とか、だ。ちゃんと人すんでいるのかな?
「あ、いた、一人でさっさと先行きやがって」
ぼーぜんとしていたら、三人衆にはすぐ追いつかれた。
「ここか?」
「間違いなく、ここがお前に紹介する最後の村、テュブだ」
……最後もういいから。
「ここの住民たちは、半分は魔物だ」
なるほど、人間と魔物が半分ずつ住んでいるのか、仲がよろしくて何より……と思ったら、
「うわ!」
と俺は声を上げた。第一村人を見ると、体格は人間だが、表面はバウザスそっくりのウロコがびっしりだし、第二村人は、毛むくじゃらの獣人だったりした。半分てそういうことかい。
さて、村の中でも比較的文化的な住宅があった。ここがマジック・ローダーの巣、じゃないや。家である。
「アノルグ、居るか?」
中は真っ暗だったが、その中から声がした。
「ひっひっひっ……おお、お前らお揃いで、……何ごとじゃ?」
真っ暗いなかで、全身真っ黒なマントを被っている人? 魔物? もはやどちらだかわからないが、このじいさんはこの村のマジック・ローダー、アノルグだった。
「人間一人連れてきた。魔法が使えないらしいから見つけてやってくれ」
あ、なんか頼み方が雑になってるー。
アノルグはこちらを見て、
「おお、おまいさんだな。よく来た。まあゆっくり座ってくりゃ。カティールでも飲むか?」
お、これまでのやりとりを知らないから、むしろこの怪しいじいさんのほうがおもてなしがいい。
「あ、マジック・ローダーのお三方。わしは誰かと話すとき、そいつとだけに集中したいんじゃ、出ててくれんかの?」
と言われた三人衆は、しぶしぶ家の戸口まで出て行った。
俺はカティールをすすりながら、まずこの村のことについて聞きたくなった。
「ひっひっひっ、おまいさん、ここの村のことについて聞きたそうじゃな。まあ、人間が初めてここにきたなら必ず聞かれるからのう、よかろう、話してやらう」
話早すぎ。
「おまいさん、ここまでマジック・ローダー連中、そいつらが治める町を見てきたなら、こう思わなかったかえ? なんでこいつらだけがマジック・ローダーなのかって」
ええ、そのことに関連して若干モメてますし。
「ひっひっひっ……そうじゃ、みんなそう思うじゃろ、人間どもはこう考えるのが当然じゃ。『"マジック・ローダー"に!!! おれはなるっ!!!!』なんてな」
ああ、俺は呪胎させるは愚か、使えもしないからそんなことは
「じゃがな、ダメなんじゃよ。……マジック・ローダーになれる人数には上限があるってこと、皆しらんじゃろうが、あるんじゃ」
ここで、家の入口から視線を感じる、ああ、監視されてるな、上限の値について、コンセンサスを守れという圧力だ。6じゃなくて5だと。
「……ともかく、その上限を超えてマジック・ローダーができるコトはない。それでも、なろうとすると……」
「すると?」
「……なるんじゃよ、呪胎能力とひきかえに、魔物に」
「つまり、人間がマジック・ローダーになろうとして、成りそこなってしまうと……魔物の姿になる?」
「そうじゃ。ここにいる村のモノはみな、マジック・ローダーになろうとして失敗した成れの果て……わしは彼らの面倒を見るために、ここにいるんじゃ」
そもそも、アノルグ自身は魔物なのか、人間なのか、は気になったのだが、多分こんなマントをしているのは、それは秘密だからだろう。その話は振らないことにしよ……
「わし自身が魔物なのか、人間なのか、気になるじゃろ? 半分くらいは魔物とだけいっておくかのう?」
自分から話を振るスタイル。
「ここの村人たちはみんなそんな感じじゃ。だからほとんどの村人に呪胎能力はあるんじゃよ」
「ええと、じゃあ、なぜアノルグさんだけマジック・ローダーと認められたんですか?」
「そうじゃな。この村に入るには、いくつか約束があるんじゃよ」
といって、俺を外に連れ出した。三人衆は怪訝な顔で遠巻きについてくる。
村の中央に、こんな立て札がある。
1. 村の不利益になることをしないこと
2. 人間を傷つけないこと
3. 人間の言葉を理解できること。可能ならば話すこともできること
「ここの村人たちは、この約束を守ることを条件に村に住めるんじゃ」
「そして、最後の付帯事項『可能ならば(人間の言葉を)話すこともできること』を満たしたアノルグだけを、私たちは、マジック・ローダーとして認めたのよ」
突然カルザーナが割り込みしてきた。
「アノルグ、いいから、この人の使えそうな魔法、さっさと見つけてくんない?」
あー、こいつらもう早く帰りたいモードだー。
「ひっひっひっ、人間どもはせっかちじゃのう。まあ、よかろう。わしが呪胎した自慢の魔法でもみてってくりゃ。そんなかで使えそうなもんがあるじゃろて」
といって、まず取り出したのは一本の杖だった。
「……これは?」
「これはのう、ステロンじゃよ。わしらみたいに、魔物になりかけた奴が、人間に戻るための魔法」
「あれ、じゃあ、これ使ってみんな人間に戻さないんですか?」
「それが、イカンのじゃよ、ステロンを使うには、その前にステブが必要なんじゃ……人間だった頃の状態をホゾンする魔法じゃ。こいつが曲者で、ホゾンしたはいいが戻せなかったりすることが多くてな。わしも戻ろうとしたんじゃが、エラになって失敗しおった」
「残念です……他の魔法はないんですか?」
「おまいさん、意外と薄情よのう。まあ、わしもどうしようもないな、とは思ってるがね……じゃあこんなのはどうかの」
といって、何やら平べったい板を取り出してきた。
「……これは?」
「トゴリーティスじゃよ。村人とこみゅにけいしょんするのにゃ、これが必要じゃ」
アノルグは、住民の一人にトゴリーティスをかざした。
あ、トゴリーティスに何か文字が見えてくる。
「nanka henna ningen ga iru 」
変ですかそうですか……ほお、こうやって村人の気持ちがわかるんだ。あ、そうだバウザスに使ってみよう。
「ore no deban sukunaku ne? 」
あ、ごめんごめん。多分このあと大活躍するからー、と根拠のないフォローを心の中でした。ん? 心の中で?
「あれ、ちょっと待ってください。これってこっちの気持ちは伝えられないんですか?」とアノルグに聞いたら、
「おいちょっとカギン、それくらいにしないか!」とアシジーモがすごい剣幕でくる。
「お前、今それ使ったよな。あのドラゴンの心読めたよな。だからトゴリーティスを使えた、それでもうよくないか?」
「ちょ、アシジーモ、何言ってんだよ……まさか、お前がくれたピカピカランダムに光るソルなんとかより使える魔法が見つかったからって、妬いてるとかか?」
「うるせぇ、そういうことじゃねぇんだ!」といって、俺からトゴリーティスを取り上げようとしたが、
「うわっ!」
何かに阻まれた。
「おまいら、わしの客人に対してなかなか失礼じゃのう」
アノルグが
「そうじゃ、それがトゴリーティスのケッテンなんじゃよ。相手の気持ちはわかっても、こっちの気持ちは伝えられん。そこでじゃ。わしのお師匠が、ひそかに作っていた魔法があるんじゃが、今まで使えたモノはおらん……まあ、魔法がほぼ使えないおまいさんには絶対使えないじゃろうがな」
「何という魔法ですか?」
「スライタスじゃ」
といって、再びアノルグの家へ入った。
奥から一本の杖を取り出してきた。
「これじゃ。誰も使えん上に、半減期も長いらしくて、いまだに呪胎は抜けておらん。これはな、トゴリーティスと一緒に使うモンらしい」
ふーん、そうか、と思って俺はスライタスを手に取って、トゴリーティスに触れてみた、あれ? なんか波紋みたいのが広がったぞ。
「…………!」
そのとき、アノルグの目が――目などマントに隠れて見えないはずなのだが――大きく見開いたような気がした。
トゴリーティスに何か文字が出てきた。
[TGR system utility menu]
Back to TGRL
T-word
T-calc
T-music
Format
Backup
Auto-Start
mon
なんだこりゃ?
「お、おまい、さん……、使える……んかえ?」
と、今までにない動揺をするアノルグ。そのとき、たまらずアシジーモたちが飛び込んで来た。
「そこまでだ!」と声を上げるアシジーモ、
「カギン、君は、そうだったのか。せっかく相棒ができたと思ったのによぉ……」とイサキスは涙声だったし、
「ふーん、あなたは大層な魔法使いね。私たちなんかじゃ到底かなわないことがわかったわ。よかったじゃない」とカルザーナは皮肉たっぷりだった。
えええ、またまたなんだかわからない、わからない。
「ともかく、もう俺たちはお前には何も協力できない。悪いが、ここでお別れだ」
いやいやいや、こんな半人半魔の村で捨てないでくれー、と思ったが、彼らはもう去っていったのだ。
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