第94話 女神の望んだ世界

「お母様は、本当に人々を愛しておられたんです」

 バウザス、いや、双子の弟、ザベルが話し始めた。

「それゆえ、人々のことをもっとよく知りたい、という願いをずっと持っておられました。あるとき、『人を知るには、自分自身が人のようにならなければ』とおっしゃったのです。

 そこで、自分の中に人の性質を取り入れるようになった……それからでした、おかしくなってしまったのは。空腹、所有欲、嫉妬、盗み、謀略……人の性質が入り込み、『よからぬことをおもいつ』くようになり、お母様は、呪胎する見返りとして人々から金品を取り立て、それに反旗を翻したマジック・ローダーたちを妬み……抹殺しようとしたのです。

 僕たちは、お母様の計画を必死で止めました……しかし、お母様は、僕たちの身に呪胎を行い、僕たちは魔物の姿になってしまったのです」

 メディを捜しに行った私を連れ戻しに来たとき第86話でも、彼はyominikui jiで私にそう伝えて来たのだった。彼は続けた。


「僕はその場から逃げてしまいました……路頭に迷い、人々に助けを求めようと思いました。しかし、着いた町ルカンドマルアでは魔物は悪者扱いでした。それで追い出されたところを、カギンに助けてもらったんです。だから、カギンさんに精一杯恩返ししたいと、どこにでもお連れしました。ドラゴンになったのは、このためだったと思って」


「おい、女神息子ヤロウ! ちょっと聞き捨てならないぞ、俺たち人間の性質って、そんな悪いものばっかりなのかよ!」イサキスが噛みついてくる。

「いいえ、違います……あなた方一人一人の中に、神がいます。だから、あなた方には神の良い性質もあるのです。でも、悪いものもいるのです。それが人間なんです。……お母様は、それを知りたがっていました」



「私は、」

 妹のルフソルアも話し始めた。

「あの恐ろしい姿になってしまい、しばらくは気が狂いそうでした。あちこち彷徨って、魔物の村にたどり着くまで、不安でたまりませんでした。デウザをはじめ、魔物の皆様には感謝しております。そして、サーイ、あなたはあんな姿の私を友達として受け入れてくれた……

 そして、カギンにも出会った頃、だんだん、思い出して来たのです。私は、何か高貴な人の娘だったってこと。でも、完全には思い出せませんでした。

 カギン様の作られたマジック・コンパイラは、お母様の望まれた世界を実現するためのものです。すべての人が魔法の恩恵に預かる真の方法は、自分自身で必要な魔法を作り出せるようになること……『人間の心』が入り込む以前は、よくそうおっしゃっていました。私はカギン様にその力があると信じ、ずっと応援したくて、それに、サーイ様のおじい様をなんとか助けたい、そう思って、あの水没した宮殿に籠りました」


 私は、カギンの書いたマジック・コンパイラの仕様書をクペナに見せた。

「クペナ様。これが、マジック・コンパイラの作り方を記した本です。」

 本を取り、目を通した。

 第5章にさしかかった時だった。

「……間違っています」


「……え?」


「間違っています。私のIDは……

00000000-0000-0000-0000-000000000001ではなく……

00000000-0000-0000-0000-000000000004です……ああっ!」

「お母様!」

そのとき、クペナの体が強ばりはじめ、みるみるうちに、石像になっていった。


「どういうことだ? あいでぃ?を遺言にするとは」


私は、持っていたリークレットの杖を周囲に向けた。


00000000-0000-0000-0000-000000000002……ザイン

00000000-0000-0000-0000-000000000003……ザベル


いた。


00000000-0000-0000-0000-000000000004


「メ……ルフソルア、あなたよ」

「私、ですか?」

「あなたが、エグゼルアの女神を継ぐのよ」

「そんな……お母様」

 ルフソルアは、泣き崩れた。

 ザベルが、そして、ザインも集まって、ルフソルアを抱きかかえた。

「僕たちが、この世界を新しく作って行くんだ。お母様が、そう望まれて、お前に託したんだ」

「お兄様……」

 三人はその場で泣き続けた。



 私の目にも涙がこみ上げてきた、その瞬間だった。

「あのーちょっといいですかね? あいでぃ?が2と3と4の方々」

 雰囲気をぶちこわす男は、健在だった。

「その、なんというか、カギンだのカギンだの、君らにそんなふうに呼ばれたことないもんでね……、一緒に時間を共にした感ゼロなんスよ。なんか、君たちは泉にボチャンと落っこちて、その後女神さまが出て来て、『あなたが落としたのは、これですか』ってゆうときに差し出される感じの……あそうか、一応女神さまの子供だったか……うん、紛らわしい例えですまんがね、そのー」

「ひっひっひっ、ぶつぶつうるさいやつじゃのう、なら、こうじゃ!」


……………


「ダーリーン♪ やっぱあんたさいこおだよー、あたしの目はフシアナじゃなかったんねー、うふっ、今度こそハグしよおよー」

「ぎょわああああああああああああ!!! なんだこりゃー!」

「ひっひっひっ、おまいさんがそう言うと思って、状態もステブしとったぞい。あ、きれいなばーじょんもステブしとるから、お好きな方をお選びできるぞい♪」


 『へびあたま』と、『ダーリン』の追いかけっこ。

 笑いすぎて涙がこみ上げて(?)きた。

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