第92話 冠をかぶるMagic Loader

 宇宙船が飛び立つと、すぐにアシジーモの杖が光りだした。


「レディウスに複数反応!」

 宇宙船のディスプレイが点をいくつか映し出した。点は北方へ向かって断続的に増えていく。

「この点の先を辿るぞ!」

 デウザがそう言うと、宇宙船は北に向かって加速した。


―――――†―――――


<<<<10日前。


「おばあちゃん!」

「サーイ、どうしたんかい」

「勝手に出歩いちゃ、だめよ」

「あの変な鉄のトリに、いつまで住めってのかい? たまには外でも散歩しないと変になっちゃうよ」

 おばあちゃんは、カギンとバウザスに連れてこられて以来、帰れていなかった。

「でも、サーイに心配かけちゃ悪いね。今度からはモナボビの種でも置いてこかね」

「モナボビの種?」

 おばあちゃんが見せてくれたその種は、小さい棘がいくつも生えていて、服にくっつけることができるものだった。

「ワタシが出歩いている間、ときたまこれを落としていくから、その後を辿ればワタシに会えるさ」

「でも、この種ずいぶん小さいよ。落としたのわかるかな?」

「ところがね、この種、レディウスに反応するんだよ。しかもわりと遠くからでも」


 そして、カギンが宇宙船を出て、テューナに向かおうとしていた時のこと。

「なんのマネだ? こんなもん体中にひっつけやがって」

「アシジーモさんが教えてくれた。近くにあのドラゴンがいるって。来てあなたをさらうつもりよ。もしさらわれたら、もがくふりしてこの種を少しずつ落として行きなさい」

「パンくず的な何かか?」

>>>>


―――――†―――――


 宇宙船は、点を追ってしばらくは順調にはしった。しかし、


 ズジャジャジャジャジャジャジャジャジャ

 フォーッ、フォーッ、フォーッ、フォーッ、フォーッ……


 再びあの警告音。


「シールドシステム起動!」

「シールドシステム オン。エラーコードE_NOERR。ゲンクウイキノコウコウヲ、ケイゾクシマス」


―――――†―――――


<<<<3日前。


「よし、やっとできたぞ」

 デウザが言った。宇宙船の修理が完了したのだった。

「この前は起動しなかったシールドシステムも今度は大丈夫だ。サーイのおかげだ」

「え? 私のおかげって……」

「この前、メディを一人で捜しに行ったとき、拾ってきただろう」

 そう言うと、デウザは船尾を指さした。

「あ、これって……」

 私が拾ってきた部品だった。

「これは、シールドシステムの回路に接続すべき終端抵抗ターミネーターだったんだ。これがなかったせいで、この前は起動できなかった」


 そのとき、アシジーモは宇宙船の船外に何かを取り付けていた。

「アシジーモさん、それは?」

「レディウスだ。宇宙船と連動できるらしい。モナボビの種の位置を船内で確認できるらしい……よくわからんがあのトリがそう言っている」

>>>>


―――――†―――――


 宇宙船を襲ってきた連中が、ディスプレイに映し出された。

「ゾジェイ?」

 今までに見たことのない量だった。

 奴らは、宇宙船に集中砲火を浴びせて来た。

「デウザ、大丈夫!?」

「シールドシステムはなんとか持つだろう!」


 そのとき、ディスプレイが切り替わった。

「ハッハッハッ、それはどうでしょうか?」

「クペナ!」

 不気味な笑いが、無表情な顔からこぼれていた。

「あなたたちの好きなようにはさせません。彼らの前に死ぬのです!」

「おい、女神ヤロウ、こいつら、いつの間に集めたんだ!?」イサキスが叫んだ。

「雇ったのですよ。彼らは食べ物や財宝を積めばすぐに動きます……ルカンドマルアのをちょっと拝借しましたよ」

「町の食糧とか盗んだの、お前かよ! 神様のくせにやることがコソクだぞ!」

 ゾジェイたちの猛攻は、なおも続いた。

「シールドシステム、残りエネルギー10%!」

「だめよ、もう持たないわ!」


「私が、出る!」

 と言ったのはカルザーナだった。

 宇宙船の屋根にある出入口から、外に出た。

「わっ!」

 外は宇宙船の推進力でものすごい風だった。カルザーナは吹き飛ばされそうになった。

「カル様!」

 イサキスも外に出た。一本の杖を使うと、風が弱まった。

「何だ? それは」

「僕のオリジナル魔法No. 133、カゼヨケール! これで風はある程度防げ……うわっ!」

 ゾジェイたちの攻撃が、シールドシステムをすり抜け始めていた。

「エネルギー、残り5%!」

 カルザーナが必死に奴らを斥けていった。しかし、奴らの数は増え続けた。


「カル様!」「サーイ!」

 私も外に出て応戦した。

 宇宙船が揺れ、風も弱まったとはいえ吹き付けてくる。そのたびに、魔法の発動が不安定になる。思うように魔法が出せない、そんな経験は初めてだ。

「どうした、ガイトゾルフ!」

 あろうことが、ゾジェイたちが煽ってきて、ますます不安になった。

 ……ガイトゾルフ? そうだ!

 私は大急ぎで船内に戻った。


 あった。


 私が第82話でいつしか投げ捨てた、ガイトゾルフの冠。


 急いで外に出て、かぶった。

 いや、かぶらせた。


「サーイ……これは!」

第55話でこのまえ言いましたよねー! 『私にくれたほうが役に立つんじゃない』って」

 冠をかぶったカルザーナの魔力は、これまでとは比較にならないくらい強くなった。

 次々とゾジェイをなぎ倒すカルザーナに、私も負けていられないと奮起した。

「サーイ! お前はやっぱりガイトゾルフの勧誘に来たんだなー!」

「そうですよー! その冠、すごくえるじゃないですかー!」



「よし、ゾジェイはあらかた倒し……何だ、あれは!」

 向こうから、今まで見たことのない魔物の影を見た。

 バウザスの10倍はあろうかという、巨大な白銀のドラゴン。


 カルザーナが杖を構えたが、

「待って!」

 船内に戻って

「デウザ、リークレットを、モニター準備!  それから、アノルグさん、ステロンと、あのカセットテープ!」


 そのドラゴンに向けて、リークレット を使った。

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 室内のモニターに、映し出された。

「当たりだ! アイツのID!」

「了解!」

 次は、ステロン。


「サーイ、何してるんだ!」

「ラスボスは無抵抗で、すぐ倒れる、というお約束よ」


 ドラゴンは光を放った。

 奴の人間だったときの記録が、読込ロードされる。

 奴のIDはリークレットで、人間のときの記録はステブで、あらかじめ採取しておいた。奴が『滅びの魔法』作りに夢中になっている間に。女神は、きっと奴を手駒に使うと予想してたから。


 そして光がなくなると、人が落ちてきた。

 ファラシュを使った。落下が遅くなる魔法。第21話ぶまえにメディから貰っていて、一度も使っていなかった。

 奴は宇宙船の上に軟着陸した。


「……はっ、俺は何をしていたんだ、などという定番の台詞を言ってみるテスト」

「よかった、その調子なら『よかった、気が付いたのね、大丈夫?』などといたわる必要なさそうね」

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