第68話 混成群の巣窟
サーイは、パラウェリ――おばあちゃん――から貰ったスクラドを携えて、大急ぎでザガリスタに戻った。
「カル様、すみません! 遅くなってしまって……」
カルザーナは、ザガリスタの館に戻っていた。
「本当遅かったな……アイツら帰ってしまった。アシジーモは『あの女のためにいちいち待っていられない』、イサキスは『怖いから』とか言って」
「ごめんなさい……」
「我々だけでもいいから、行こう……その前に、一つ聞いていいか?」
「はい?」
「あの、カギンという男のことだ。知っているだろ」
単刀直入に聞かれて、嘘をつくわけにはいかなかった。
「……はい、知って……います」
「そうか……、この前言っていた……、サーイのおじいちゃんを捜しているという、『あの人』……その人は……奴のことか?」
……ここで、サーイは
「……なぜ黙っている!?」カルザーナはなおも問い詰めた。ここは、嘘をついてでもやり過ごそうか、と迷っていたそのとき、
「ザガリスタのマジック・ローダーよ、この前も注意したはずです。我々の遣わした者を責めるのはやめなさい」
クペナが現れたのだった。
「責めているんじゃない。ただ、確認したいだけだ。あのカギンという男について……」
「あの男なら、私も知っています。ただの愚か者です。サーイを侮辱して追放されたのです。そんな者がサーイに協力して、おじい様を捜すなど、絶対にありえないことです。……そのようなことに心を砕くのはやめて、サーイに必要な支援を行いなさい。いいですね」
そう言って、クペナの姿は見えなくなった。
「……行こう」カルザーナは一言だけ言って、サーイとともにイウカーマに向かった。
おびただしい数の蔓植物が見えて来た。サーイがパラウェリからもらったスクラドを使うと、植物たちはたちまち眠り始めた。その上を踏んで歩いても何も反応がないくらい深い眠りについたようだ。無事、蔓植物の立ちはだかる地帯を通り過ぎた。
「……おまえ! ら?」
カルザーナが先ほど出くわしたゾジェイの見張り三匹に、再び出くわした。
「立ち去ると言ってただろ!」
「ああ、立ち去ったわよ……それから、戻ってきただけ」
「なんだとこの屁理屈女、しかも……おい、見ろ!」
三匹は、サーイを見て驚いた。
「ガイトゾルフのシンイリ、サーイ・ライガ!」
それを聞いたサーイが逆に驚いた。
「なぜ、私の名前を……」
「へん、おまえが地上にいたときから、仲間を通じて情報はもらっていたんだ。お前、俺ら混成群が苦手なんだって専らの噂だぜ。それなのによくもやって来やがって。その勇気だけは誉めてやろう」
「ふふふ、それはどうかしら?」カルザーナが口を挟んだ「我々マジック・ローダーの協力があれば、サーイはお前らなんかの敵ではない。痛い目に遭いたくなければ、おじいさんを素直に渡しなさい」
「だから、知らんといっただろ」
「あなたたち自身、嘘ついてるかもしれないって言ったじゃない?」
「生意気な! こうなったら本当に応援呼ぶしかねぇな、覚悟しな!」
三匹が立ち去ると、ほどなくして混成群の大群が現れた。
「来たぞ!」
「はい!」
サーイが左手の杖を大群に向けると、アシジーモが呪胎したリングの色が赤、青、緑、黄色と目まぐるしく変化した。どれか一匹に狙いを定めると……青。イサキスが呪胎したツェデを青色が光るまで発動。そして、右手の杖を発動……
サーイの右手の杖に呪胎されている4種類の魔法だけでは、対応できない魔物もわずかながらいたが、それを補うように、カルザーナが魔法を準備していた。二人の手によって、大群はあっという間に蹴散らされたのだった。
「サーイ、奴らの本拠地は、岩山の中にある。おじいさんは、その中に閉じ込められているかも!」
「はい、行きましょう!」
一方、その岩山にある洞窟内では、緊急の会議が行われていた。
(どうなってるんだ! 奴は混成群に弱いはずではなかったのか)
(地上の連中によれば、奴が杖をとっかえひっかえする間がチャンス、一気に襲い掛かれ、などと言ってたぞ)
(嘘だそんなの! アイツはとっかえひっかえどころか、1本の杖から火だの水だの、何だって出てきやがったぞ!)
(おかしい……1本の杖からそんなに何種類出せるなんて、そんな杖見たことないぞ)
(どうやら、マジック・ローダー連中が奴の後ろ盾になって、ケッタイな魔法をあげてるらしいぞ!)
(……ええい、どうするんだ! )
(悪い奴は、元から絶つ……)
(……誰だ?)
やがて、洞窟内の魔物は混乱状態に陥っていった。そこにサーイとカルザーナが来ると、混乱はさらに広がり、ほとんどの魔物らは逃げ出していった。
「ゆ、 許してくれ」
逃げ遅れた魔物たちも、命乞いをする始末であった。
「許して欲しければ、おじいちゃんを早く返して!」
だが、サーイがそう咎めても、
「そ、そんなのは知らない」
と、誰もがマージのこととなると口を割らなかった。
「こ、この洞窟、気の済むまで探してくれ……」
口を割らない、のではなかった。本当にいないのだった。
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