第57話 杖を託すMagic Loader

「何よ、結局みんな集まってきちゃって……いいわ。戻りましょう」

 店を出て、カルザーナの邸宅に戻った。


―――――†―――――


「で、結局コイツに協力するのかよ」

 アシジーモは不満を漏らしていた。

 カルザーナは元通りの武装に戻り、髪を束ねていた。サーイも再び冠を身に着けている。


「イウカーマにいるゾジェイ連中には、こっちも手を焼いてんのよ。サーイのおじいちゃんが助けられて、ゾジェイ連中も一掃できるんなら、Win-Winじゃない」

「いや、でも……」

「アシジーモ、ぶつぶつ言ってないで、サーイさんのためにがんばろー」

 と、終始テンション高いイサキスが続けた。

「そこで! 僕のツェデの出番です!」


「「なんでだ!?」」とアシジーモとカルザーナが口をそろえた。


「私が、お願いしたんです」サーイが口を挟んだ。

「混成群を相手にするには、素早い杖の切り替えが必要なんです。そのためには、イサキスさんの魔法が必要です。なんでも、一本の杖でたくさんの魔法が使えるらしくて……」


「え? ツェデにそんな効力が?」

「そうですよ、前、説明しましたよね!?」

「えー、なんかツェデツェデいってただけじゃん、あの……カギンとかいうのが」


 不意にあの男の名が出て、サーイは多少驚いたが、「仲間たちが、カギンとはもう付き合うなと言った」というイサキスの言葉を思い出して、そうか、「仲間たち」にカルザーナも含まれていたのか……などと考えていたら、

「……どうかしたのか?」とカルザーナから問われて、

「あ……いえ……すいません、それで、イサキスさんの魔法を使って、カルザーナ様に攻撃魔法を呪胎していだきたくて……」


「そう! コラボですよ、コラボ」とイサキスはテンションMAXだったが、

「な、なぜ私がイサキスなんかと……」

「なんだよ、俺は結局出番なしかよ」

 と、カルザーナとアシジーモは不満を露わにした。

「アシジーモ、君は探索魔法が得意じゃんか、なんかないのかよ、こう……相手の属性に応じてイイカンジにするやつとか」

「そんなん絶対あるわけないだろ」

「よし、そうと決まったら3人でコラボだ!」


―――――†―――――


「さあ、カル様、いつも通りフィレクトを呪胎してみてください。僕がいいかんじのところでツェデしますから、その次はウィリュムを……」

「なんという屈辱だ。お前に指図されるなど……」

 サーイは、「お二人初めての共同作業ですね」などと冷やかそうとおもったが、またブチ切れられそうなのでやめておいて、隣で別に作業しているアシジーモの様子を見た。杖ではなくて、小さいリング状のものに呪胎をしようとしている。

「アシジーモさん、これは?」

「レディウセット。魔物の属性を色で提示する。他の杖に装着して使う」と淡々と返した。



「イヤッホーい、できました!」


 サーイの右手には、4つの攻撃魔法を呪胎した杖、左手には、ツェデの杖に、レディウセットを呪胎したリングを嵌めたものが握られている。


 館の裏庭に出ると、池の畔に魔法の練習場があった。ダミーの魔物人形4体に、炎、水、植物、雷属性の魔物と同じ成分の魔法が呪胎されて置いてある。


「サーイさん、じゃあまず左端の人形に、左手の杖を向けてください」

 すると、杖のリング部分が赤く光った。

「赤は炎系の魔物を表す」

「ツェデを、赤が光るまで何回か発動させてください」

「そうしたら、右手の杖を発動させなさい」


 すると、ウィリュム、すなわち、炎系の魔物の弱点となる魔法が発動された。


「わかりました。つまり、まずこのリングの色を見て、同じ色になるまで切り替えると、相手の苦手な魔法が選択される、と」

「さすが、理解が早いですね!」

 もう日が傾きかけていた。サーイはカルザーナの館に泊めてもらうことになった。


―――――†―――――


 その晩。

 サーイが寝ていた空き部屋は、窓から裏庭の池がよく見える位置にあった。その晩は暑く、窓を開けていた。窓の外に人の気配がしたので、サーイは目を覚ました……カルザーナが、池の畔で大きな杖を持って、何かを見ているようだ。気になって、外に出てみた。


「カル様」

「ごめん、起こしちゃったのね」

「何……見てたんですか?」

「……」

 カルザーナは黙って、池の水面を杖で指した。


「これは……カル様のお父様?」

 黙って頷いた。


「キュレビュ。これを使えば、過去を見ることができる」カルザーナは杖を指して言った。

「過去……てことは……なんですね」サーイは察した。

 カルザーナは黙って頷いき、「私は毎晩、こうやって見ている」とだけ呟いた。


 見ると、水面に映る男……父親が、同じ杖を持っている。

「お父様の……形見」


 そのとき突然、水面に映る父親が、杖を前に突き出して、こんなことを言った。

 ≪カルザーナよ、これは、キュレビュ。これを使えば、過去を見ることができる。……だが、それは注意して使わないといけない。いたずらに過去を振り返ることに、何の意味があるだろうか。これは、本当に必要な者が、必要な時に使うものだ……もし、私が戦地で死んだとしても、私のことを振り返ったりするのには、絶対に使わないでほしい。≫


「父上……ごめんなさい」カルザーナは泣き崩れた。

 サーイは傍に寄って言った。

「仕方ないわ……愛する家族に会いたい気持ち、それは抑えられないし……それに、お父様、本当は、ご両親のことをいつも忘れないカル様を見て、喜んでいるんじゃないかな」


「サーイ!」

 カルザーナは突然、叫んだ。

「……この杖は、あなたが持ちなさい!」

「……え?」


「私は毎晩のように、この場面を見てしまうんだ。父上ご自身から見るな、と言われても、見てしまう……もううんざりなんだ」

「でも、それじゃ……」

「あなたは、まだ生きている家族を探さなければならない。すでに亡き家族を振り返るのに比べて、遥かに大事なこと。『本当に必要な者が、必要な時に』使うべきじゃないか?」

「私が、いつ、何のために、使うんですか?」

「それは、わからない……でも、私が持っていたら、使いたいときにサーイが使えないだろう!」

「……わかりました」


 その杖は、ずしりと重かった。亡き父の魂が宿っているようにも感じた。

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