第55話 最強女魔法戦士にコイバナをふっかけるMagic Loader

 ザガリスタの入り口まで戻ってくると、門番たちが慌てた様子だった。

「カルザーナ様! 魔物は見つかりましたか!?」

「ああ、ただの誤報だった。町の者たちには、心配ないと伝えてくれ」


 ザガリスタの中に入ると、カルザーナが歩いているというだけで人々の注目がこちらに来る。挨拶してくるのは当然で、地面にひれ伏す人もいる。そして、見慣れないサーイの――ガイトゾルフの姿を見て、いぶかる者もいた。


 カルザーナの邸宅の前に着くと、

「まったく、これじゃあサーイも落ち着かないわよね。ちょっとついてきて」

 と言って門を通って中に入った。すると、突然、カルザーナはサーイが身に着けている冠を取り外した。

「え、ちょっと……」

「大丈夫大丈夫、こんなん被ってたらあなたも変な目で見られるし……私もちょっと準備してくるから待ってて。あと、イサキスが来やがったら私はいないよーって伝えておいてね」

 と言って建物の中に入って行った。

 しばらくすると、

「お待ったせー」

「カルザーナ……様?」

 先ほどまで束ねていた髪はほどいてあり、ビキニアーマーの代わりに、庶民的な服装で現れた。



 周囲の人はたまにこちらを見るが、先ほどのような挨拶もすることなく通り過ぎていく。

「ま、私だってことはみんな知ってんだけどね。この格好の時はプライベートだから邪魔すんなってことが暗黙の了解になってんのよ」

「そうなんですね……」

「ところでさ、あなたが被っているあの冠だけど」

「はい?」

「あれって、魔力を増大させる効力があるって聞いたんだけど、実感としてどうなのよ?」

「……あまり変わらない気がします」

「多分ね、あなた、もともとすごい魔力だから、それ以上は上がらないのかもね。あれさぁ、私にくれたほうが役に立つんじゃなーい?」

「……やめてください」

「うふふ、冗談よ」



 改めて、ザガリスタの中を歩いてみる。ルカンドマルアに負けず劣らぬ人の多さ。同じく市場にはたくさんの美味しそうな肉や果物が並び、武器の店には、やはり、たくさんの杖も並んでいた。啖呵売たんかばいこそしていないが、やはり多くの人が来ている。


「マルリスタとフィリスタくださいな」

「毎度! 最近物騒だからねぇ、気をつけなよ」

「レジムを3本、あとソルブラスを」

「お客さんすみませんねぇ、ソルブラスは今品切れでして……」

「旦那、ここにある『ジョーク魔法』って何なんスかね? カーエリタイ? オフトゥン? あとツェデ?」

「ああ、それはカルちゃんが来て、置き場がないからって置いてったんだが、ロハにしてもだーれも持ってかないんだ。おひとついかがかな?」

「いいです……」

 通り過ぎながらそんなやりとりが聞こえてきた。


「カルザーナ様、あの魔法て……」

「決まってんじゃない。イサキスのバカがしょっちゅう持ってくるからよ。猫のおみやげじゃあるまいし……」


 しばらくすると、カフェらしき建物に着いた。「話題のナタデココ、新メニュー登場!」などとポップが書かれている。


「え? 本当にカフェなんですか?」

「なんだと思ったの?」

「マジック・ローダーの間で通用する婉曲表現かなんかかと……ぶぶ漬けでもどうぞとっととかえれ的な」


「何よ、あなた意外と固いのね。せっかくさ、こうやってヒロインと準ヒロインが一緒になったんだしさ、いいじゃんこういう絵があっても」

「……カルザーナ様までそんなこと。しかも今の文脈パートで……ついでだから言わせていただくと、なんでこの世界にナタデココが……何でいまさら……時代考証はどうなってんでしょうか……」

「細かいことはいいじゃないの」


 サーイはまだ納得してない感じだがとにかく店に入った。2人はそれぞれ発注した。

 カルザーナ → ナタデココのフローズンヨーグルト、ティカボを添えて

  サーイ  → カティールのゼリーとナタデココのパフェ


 しばらくして、見事に盛り付けられた品が運ばれてきた。

 エグゼルアに来てから、スイーツなどはもちろん食べたこともないし、存在しているとも思っていなかった……には、食べる前にやりたいことがあるようだ。

「カルザーナ様、あの……こういう魔法はないんですか? ……こういう見のよい料理を、食べちゃうとなくなるから、食べる前にその姿を留めておくようなものは……」

「何言ってんのよ、そんな魔法あるわけないじゃない。イサキスにでも作ってもらったら? いいから食べましょう……あと、『カルザーナ様』って呼び方、堅苦しいから別のにしてよ」

 サーイは一口食べてみた。

「あ、おいしい! カル様、これおいしいです」

「……やめてよその呼び方、イサキスと一緒じゃん」


「……好きなん、ですか?」

「ん? 私は、いつもこれだ。ここのフローズンヨーグルトはめっちゃ好き……」

「とぼけたって、ダメですよ、カル様、さっきから何かと言えば、イサキス、イサキスって。あんな風にしょっちゅう張り倒しておいて、本当は好きだからじゃないかって、ずっと思ってたんだけど」

「な、何を言うんだ。あいつは、小さい頃からずっとあんなだらしなくて、それなのに、マジック・ローダーになってしまって……攻撃魔法を一つも呪胎できないし、あんな感じではいつまでたっても一人前になれないから、つい……」

「幼なじみ、なんですね?」

「ああ、……イサキスも、ザガリスタに住んでいたのよ。さっきの武器屋、あれが実家よ」

「あのご主人、イサキスのお父さん?」

「そう。それで、自立のためにサイダケにイサキスを派遣したはいいんだけど、あの体たらくじゃ、いつまでたっても村を守れそうにない。だから心配で心配で……」

「ふーん……愛情たっぷりじゃないですか」

「そうよ、あの両親はアイツのためを思って……」

「またまたー、違いますよ、カル様がですよ、イサキスに」

「……ち、違う! そんなことは絶対にない……」

にない……ですか。それはつまり『ある』ってことですか?」

「なんのこと? じゃ、じゃあ、サーイにも聞きたいことがある」

「何?」

「さっき言っていた『あの人』とやらだ。サーイ、あの人のことは、どうなんだ?」

「ああ、それは……絶対にそんな風には思っていない、と言っておけばいいですか?」


 その時、カフェの扉が鐘の音を鳴らして開いた。

「あ! いた。やっぱりここにいたか」

 と話しかけるものがいた。


「カルザーナ、もうちょっと在庫の把握をしといてくれ、さっき、おやっさんにソルブラスがなくて困っている、今すぐ呪胎してくれ、なんて立ち話で頼まれちゃって、大変だったんだからな……」

「……今はプライベートなの。仕事の話はしないでって約束じゃない?」

「なんだよ、一体誰と……あっ!」


「アシジーモさん!」


「お、お前ら、なにやってんだ、女子会か?」

「そうよ、今からサーイにコイバナしてもらおうと思ったのに、とんだ邪魔が入っちゃったわ」

「おいおい、カルザーナ、こいつは、アレじゃないか」

 他の客もいる中、ガイトゾルフと呼ぶのは憚ったようだ。

「お前はアレには絶対くみしないっていう信念だったはず……」

「ああ、そんなこと言ってたっけ。でも、サーイの話を聞いたら、どうでもよくなっちゃたかな」


 その時、カフェの扉が鐘がまた鳴った。

「カル様、ここにいたんですね!」

「ほら、ダーリンがやって来たみたいですよ」

「サーイ! いいかげんにしてよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る