第2章 邂逅

第20話 最悪の馴れ初め

 俺は、奈落の底へバウザスにのって飛び出した。


 出発してまもなく、何やら集まってきた。あ、こんなところにも魔物が出現しやがる。

(実はいままでも結構エンカウントしてたけど、マジック・ローダーの皆さんに任せきりだったことは秘密だ)

 なんか植物みたいなのが綿毛で空を飛んでて、こちらを攻撃しようとうかがっていた。


「これはまずい、俺には攻撃魔法なんかないぞ(棒」

 と思ったときだった。バウザスが口から炎を吐いた。

「お! おまえそんな能力があったのか! (棒」

(実はマジック・ローダーの皆さんに混ざってバウザスも結構攻撃していたのだった……てか、その場面書いてやれよ、だからdeban sukunakuneとか言われるんだ)


 調子こいてどんどん攻撃していたら、あたりを白い雲が包み、なにも見えなくなった。

「やばい、これはどこから攻撃されるかわからないぞ(棒」

 そう、俺にはこれがある! ソルブラス~。そう、「善なら青、悪なら赤に光るけど、俺が使うと正解率50%」のアレだ!


 これさえあれば、善だか悪だかしらんが、「とにかく魔物がいる」ことはわかる! 間違って善の魔物を攻撃するとアレだから、光ったらとにかくよける、で乗り切った。相手も雲のせいでこっちは見えまい。


 そうこうするうちに、地面が近づいてきた。


―――――†―――――


 案の定、奈落の底、と呼べるようなものではなく、緑が生い茂っていた。しかし、集落らしきものが見当たらない。あの追放されたというマジック・ローダーは、どこに住んでいるのだろう……


 と思ったら、なんか人らしきものがいた。しかもなんか集団で民族大移動してる。さらにいうと、みんな何か思い詰めた表情だ。

 俺はさっそく彼らのもとに行き、上空から、空飛んでるときの定番の台詞で話しかけてみた。

「お客様、じゃないや、皆様の中にマジック・ローダーはいらっしゃいますかー」

 だが、そういったら、彼らはすごい形相で、

「マジック・ローダーだと! そんなやつはいない!  絶対にいない!」

 などと言うではないか、なんだこいつら。

「お前は誰だ! ドラゴンなんかに乗って! これ以上近づくな! いますぐ立ち去れ!」

 さすが奈落の底。第一印象悪すぎ。


 仕方なく、彼らが歩いている方向と逆方向へ進んでいくと、あ、また集落? あれ? 違うか。なんかテュブによく似てるな。あ、まさかまた魔物さんの村かな? おお、そうだそうだ、なんか魔物的な生物がうろうろしてるぞ。あ、なんか魔物だかりができてら。行ってみよ……ん? あれ? 人間?


「おじいちゃん……おじいちゃん……」

「すまなかった。悪い魔物は絶対通さない、とか言っておいて……あんな奴の侵入を許してしまって」

「あなたたちは悪くない……私が……私が守るべきだった。家族のようだと言っといて、私は、おじいちゃんを……見捨てたのよ」

「あまり自分を責めるんじゃない」

「……あなたたち、魔物でしょ、魔物なのにそんな人間みたいな慰めはやめてよ!」


 うん、そうだそうだ、魔物らしからぬ台詞を言うやつがいるもんだな……おお、それどころじゃないや。聞き込み聞き込み。

 バウザスから降りて、魔物だかりの背後まで行って聞いてみた。


「えー、ちょっと失礼しまっすけど、このへんに、マジック・ローダーはいませんかねぇ」

 魔物たちが一斉に振り向いた。

「マジック・ローダーだと!」

 えぇ、またか、なんだこの反応は。

「こいつ、サーイの傷口に塩を塗るようなこと言いやがって!」

 と、鳥みたいな魔物がおっしゃる。おお、魔物らしからぬ見事な慣用句の使い方……ってだから何の話だ?

 そのとき、甲高い声がした。

「みんなー! アイツは、アイツは、パラウェリの木のほおへ向かっ……」


 ぎょあああああああああああああ!


 へ、へび、へびの、あたま…… かみのけ、ぜっっんんぶ……蛇!!!

 蛇は大嫌いだー! 俺は一目散に、バウザスのもとへ駆け寄って、彼の巨体の後ろに隠れた。すると、


「…………! あのドラゴンは!」

 と、魔物さんらはまたも俺を睨みつける。

「おい、お前! マージはどこだ!」

 マージ? ええええ、何、何、何の話?

「ちょっとまてくださいよー、俺初めてここにきたですよー」

「ウソつけ! その青いドラゴンが、マージをさらって行ったんだ、俺たちも、サーイも見たと言っている!」

 いやいやいや、こいつら完全に誤解している。この誤解を解かなければ……あ、そうだ!

「皆さん、大丈夫ですってー。俺の相棒バウザスは、生粋の善の魔物でっせ。ほら、こうやるとわかるんです」

 俺は、ソルブラスを取り出して、バウザスに使った。


 ……赤


 うん、ここまでは想定通り、そしてこう言ってのけた。

「この杖はですねー、善の魔物なら赤、悪の魔物なら青に光るんですよー、ね、これで彼は善だってわかったでしょ」

 完璧。



「……その杖、私に貸しなさい」

 あ、さっきまで泣き崩れていた女……いつのまにこっちまで来てた?

 と思う間もなく杖を取り上げられてしまった。


 ……青


「……どういうことよ?」

「えっ、それは、そのぉ……」

「ちょっと、みんなも来て」

 魔物たちがぞくぞくと詰めかけてくる。

 魔物たちに杖を順番に渡していった。

「……青だ」

「青いな」

「まごうことなく青」


「やっぱり、お前とそのドラゴンがやったんだな!」

「うわぁぁぁあああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……いやそのアレなんですって、俺、実は魔法はほっとんど使えずのデクノボーでして、その魔法はただのハッタリでして……そこはごめんなさい。でも俺はほんとに知らんですよー。だいたい、誰かをさらっといて、その現場にノコノコと戻ってくるようなバカがどこにいますかねぇ?」

「あなたは、それくらいバカに見えるけど?」

 わ、この女、言いよる。

「とにかく、あなたみたいな人に会わせられるおじいちゃんは、いないの。さらわれていようが、いまいが……そうだ、メディ、さっき言ってたけど」

「あ、そおそお」

 うわっ、こっち来んなへびあたま……

「パラウェリの木、の方へ行ったって?」

「アイツの行く先を目で追ってたら、その木を伝って上に行ったんよ。そっから先は雲がかかってて見えなかったけどー」

「それじゃあ、その木を登っていけば……でもその先って……? どうなってるの?」

「なんかしらんけど、上に行くとまた町や村がいっぱいあるらしいんよ」

「……どこに行ったかなんか、わからないじゃない」

「手がかりは……めがみさま、じゃない?」

「……そうね。女神様が最後に言ってたわ。私をガイトゾルフとして迎えるとかなんとか」


 ガイトゾルフ!?

「はい! はい! はい! 俺、知ってる! 知ってる!」

「なんなのよ、鬱陶しいんだけど」

「俺のホームタウン、ルカンドマルアにある団体でーす!」


「ルカンド……マルア?」

 その時、なぜかへびあたまのテンションがだだ下がったのだが、しばらくしたら、

「なにそれ?」

 などと、とぼけやがる。


「おいへびあたま、人間をおちょくるのはやめろ!」 

「私の大事な友達をそんな風に呼ぶのはやめてちょうだい。しかもその説明、肝心なことが何もわからないじゃないの。やっぱりあなたバカよ」

「肝心なこと? それはだな、そのガイトゾルフってのは、ようは魔物をやっつける団体で……」

 そう言ったら、さっきの鳥みたいな魔物がまたブチ切れて来た。

「おい、ここかどこだか分かって言ってんのか!」


「あ! ごめんごめん魔物さんたち。失礼しやしたー」

 といって俺はバウザスに飛び乗って逃げ出した。

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