第21話 浮遊大陸へ:友との別れ

 サーイは、メディとデウザに連れられ、「パラウェリの木」に歩いて向かった。ほどなく、森の中に入ったようにみえたが、それは森ではなく、一本の木。あまりにも巨大なため、枝と葉っぱが空を覆い尽くす。木漏れ日はわずかに入るか入らないかである。ずっと日が差さないため、草もほとんど生えず、苔むした地面。さっきまでの太陽の暑さが嘘のようにひんやりしている。


「この木は、地上と天空を繋ぐ木と言われている。登った先には浮島があるらしい。小さいものは岩くらいのものから、大陸のようなものまで、様々だそうだ」デウザがそう話す中、サーイはマージとデウザのやりとりを思い出した。


≪……それは、ソルブラスか?≫

≪何だ、人間のくせによう知ってんな≫

≪上にいたとき、仲間が呪胎できたからな≫


 「上」とは、今から行く先のことだろうか。



 パラウェリの木の幹のあるところまで来た。


 村一つ分くらいはある幹の太さ。


「これを……登っていくの?」サーイは上を見上げてため息をつく。

 幹から生える枝は、もっとも低いところから生えているものでも、10階建ての高さくらいはある。

「えーとね、こっからは無理」

 メディは幹の周りをしばらく歩き、

「あったよ! ここ!」


 何者かによって幹がくりぬかれた跡があり、階段のように掘られている。今は朽ちかけているが、この中を登って行くことはできそうだ。


「さてと」

 メディは大きな袋をもって来ていた。中には、おびただしい数の杖がある。

 一本一本取り出しながらサーイに説明した。

「これはね、ヨガブ。虹をかけて、枝から枝に飛び移れるやつ。浮島を渡るのにも使えるって。こっちは、ファラシュ、万が一滑って落ちそおなときに、ゆっくり落ちれるやつ。あとは、エディル。これは、木の実が食べていいものなら青、食べちゃダメは赤で教えてくれるやつ。これぜんぶ、村のみんなが呪胎してくれたよ。途中で呪胎が抜けてもいいよおに、それぞれ2,3本はあるから」

「ありがとう!」


「それから……ソルブラスだが、なにぶん、半減期が短いものでな。使わなくても数日で呪胎が抜けてしまうんだ。持たせても荷物になるだけだろう」

「わかったわ、デウザ」

「ここの木に棲んでいるのはほぼ悪の魔物、すなわち向こうから攻撃を仕掛けてくると思って間違いない。奴らはたいてい植物系だから、フィレクトでだいたいなんとかなる」


「あ、でもね」メディが挟んできた。「1つ気をつけて。あたりいちめん木だからね、火を使ったら、絶対にそのままにしちゃいけないんよ。いっせえに燃えひろがるから……、だからフィレクトを使ったらすぐにウィリュム。水を使って火が燃え広がらないよおにするんよ」

「わかったわ……じゃあ、メディ、デウザ、私行ってくる。ここでお別れになっちゃうのは寂しいけど……今までありがとう」


「サーイさん」

「なに? メディ」

「サーイさん、もしかして、あたしにも怒ってるんじゃないの?」

「え? どうして?」

「だって……あたしだって、ぜんぜん知らなかったもん。地球に帰れるとわかったら、きっと一緒に喜んでくれると思ってた。だけど、サーイさんは、そのことで泣いていた……」

「ごめんね。せっかくメディたちが作ってくれた帰還装置ツェノイだったのに……帰りたいって言ったのは私なのにね」

「そお。それだから、喜んでくれるかなって」


「……あのね、メディ、人間って言うのは、あなたたち魔物に比べてね、よーっぽど変なの。おかしいわよね、私……『帰りたい』と言ったのに、『帰りたくない』とも思っているのよ」

「そおなの?」

「そうよ、だって……こんな、どこから来たかもわからない人を、暖かく迎えてくれた人たち、魔物たち。そして、私を家族のように守ってくれたおじいちゃん……それなのに……みんなをこんな目に合わせておいて、帰れるわけないじゃない」

「そんな……それって、あたしわからないかも。やっぱりバカなのかな? 魔物だからかな?」

「だめよ、そんなこと言っちゃ、あなたたちは純粋に私のことを思ってくれている。バカなんかじゃないわ……」


 そのとき、上のほうから枝がざわつく音と、叫び声がした。

「……あ、ほら見て。人間にもバカがいるじゃない」

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