第3話 ファーストレイヤー

「なんだ、これ……」


 洞窟の中は広く、誰が置いたのか壁には火の点いた松明が一定間隔で並んでいる。

振り返れば、俺たちが出て来たばかりの校舎。明らかに洞窟の背景とミスマッチで、校舎だけが地面の中に潜りこんできたようにも見える。


「ここはどこなんだ?」


 俺が訊ねると、ルナはにっこりと微笑んだ後、話し始めた。


「……カケルくん。スマホを開いてみて」

「スマホならさっき見た。圏外で使い物にならなくなってたぞ」

「ううん、違うよ。見るのは白いアイコンのアプリ」

「白いアイコンのアプリ……?」


 言われた通りスマホを開いてみてみると、いつの間にか白いアイコンのアプリがインストールされていた。


「待ってくれ。どうしてルナがそんなことを知っている?」

「もう、忘れたの? カケルくんとルナは視界が共有されているんだよ。さっき、カケルくんが助けを呼ぼうとしてスマホを開いたときに、前までは無かった白いアイコンのアプリが見えておかしいなって思ったの」


 俺はルナの洞察力を甘く見ていた。

 彼女は俺のことをいたるところまで熟知している。故に些細な変化に敏感なのだ。


「ほら、早くタップタップ~♪」

「あ、ああ……」


 言われた通り白いアイコンのアプリをタップしてみる。すると、


『ここは ダンジョン 第一層 です。』


 という文字が出てきた。


「ダンジョン?」


 ルナと顔を見合わせる。

 ダンジョンって、迷宮とかそんな意味だったような気がする。


 そして、その下には俺の名前と、俺に似ているドット絵のキャラクター、そして何やらゲームのステータスらしきものが表示されている。


________________


名前:カケル 男


HP 100/100

攻撃力 2

防御力 1

素早さ 5

運   3


________________


「なんだこれ、まるでゲームじゃないか」

「このステータスは高いのかな?」

「高いようには見えないが……」


 気になるのがレベルの表記がないことだ。普通、ゲームであれば敵を倒してレベルアップして強くなっていく。なのに、それが無いということは強くなることは不可能なのだろうか?


「そういえば、学校にいた人達はどうなったんだろう。ルナが目覚めた時、誰も居なかったのか?」

「うん。わたしが起きた時にはもう誰も居なかったと思う」

「そっか、他の人も無事だといいな……」


 なんとなく同調を求めるような言い方にしたのだが、


「カケルくんが無事なら他の人はどうでもいいかな」


 と笑顔で言うだけだった。――この子はどこか、人とズレているような気がする。


「とにかく人を探そう。まだ近くに誰かがいるかもしれない」


 スマホが使えない今、頼れるのは自分自信だけ。ここで待っていても何か変化があるとは思えないし、留まることよりも前に進むことを選んだ。


 しばらく歩いていると、3つの分かれ道に差し掛かった。その真ん中には何やら看板が地面から生えている。その看板にはマジックペンか何かでこう書かれていた。


『← 死  ↑ 生  → 死』


 死とか、生とか、何やら物騒なものが書かれているこの看板。矢印は進行方向のことだろう。


「これは何だろう?」

「普通に考えれば看板だよな。矢印の方向には行先に何が書かれているのが普通だけど……」

「死の方向に進んだら死んじゃうのかな?」

「どうだろう」


 これは一体誰が何のために立てたのか、大人しく従うべきなのか、俺は頭をフル回転させて考える。もし従うなら真っ直ぐだが、罠という可能性だって考えられる。


――どうする俺……?


 普通に考えれば『生』を選ぶのが正解だ。

 もしこれがなぞなぞなら、この近くに何かヒントが隠されているはず。しかし、それらしき物があるようには見えなかった。


「ルナ、どうだ? 何か近くに気になるものはあるか?」


 視界を共有しているため、俺はルナに見せつけるように、ゆっくりと辺りを見回す。


「うーん、特に何も無いと思うけどな」

「ヒントは何も無しか。この通り進んでいいのかな」

「ルナはそれでいいと思う」


 ということで、俺たちは『生』の方角に進むことにした。この道が正解だったのかは分からないが、俺たちの身には何も起こらず、そのまま長い一本道を歩かされることになった。


 そして、しばらく歩いてみると、またしても分かれ道。その真ん中には同じように看板が立っていた。


『← 生 ↑ 死 → 性』


 左の道は『生』、まっすぐ行くと『死』、左の道は『性』だ。


「って、性ってなんだよ!」

「カケルくん、またえっちなこと考えてる?」

「考えてねえよ! 大体、こんなワケのわからないダンジョンで『性』を選ぶとか絶対に罠だろ」

「本当にそうかなあ?」

「絶対にそうだって。今回も『生』が正解だよ。ほら左の道を行くぞ」

「あ、待ってよ。カケルくん」


 左の道を進む。景色は相変わらず単調な茶色の岩肌をした景色が続くだけだ。

 このまま進んでいいものかどうか迷っていると3つ目の看板を見つけた。今度は矢印ではない。何やら文字が書かれてある。


『ここがお前たちの墓場だ』


 ただの看板なのに、死を宣告されているような錯覚を覚える。

そして――。


「カケルくん! 危ない!」


 突然ルナに突き飛ばされる。ルナの持っていた棍棒が床に転がる。

 一体何が起こったのかと後ろを振り返ると、そこには正方形の底の見えない落とし穴が出来ていたのだ。

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