61人目の客人


「えっと……すみません。少しお邪魔してもよろしいでしょうか?」


 おずおずと入ってきた男性。

 僕はうんざりしてしまったが、顔には出さなかった。


「どうぞ、お入りください。紅茶をお淹れしましょう」

「ありがとうございます」

 後ろを気にするように、扉の方をチラチラ振り向きつつ、男は僕の勧めた席に座った。


「どうぞ」

 戯れに、ぶつかりそうなほど男に近寄り声をかけると、案の定、男は飛び上がった。そのまま後ろにひっくり返りそうになる男の椅子を支えてやると、瞳で感謝を伝えてきた。


「普通の方は、それでは気付きませんよ」

 僕が言うと、男は悔しそうな顔で、唇を噛んだ。

「そう……ですよね……」

 じっと見つめてやると、男は少したじろいだが、少し嬉しそうにしていた。


「何のスポーツが好きですか?」

「えっと……運動はあまり」

 そうですか、と僕は自分で振った話題をあっさり切り替えて、捨てた。

「では趣味は?」

「本を読むことが好きです」


「どんな物語が好きなのですか?」

「よく分かりません。色々読みます」

 そうですか、とまた僕は興味のかけらもない話題を捨てる。


「あなたがどうしても欲しいものは、何ですか?」

「……?」

 男は疑問符を浮かべる。やはりイラつかせてきた男に、僕は同じ問いをなぞってやる。

 男は顎に手を当てて、考えだした。それも何故か様になっていて、僕の精神を攻撃してきた。

 どこまで我慢できるでしょうか、と思っていると、男はやっと、答えを出した。


「友達」

 思わずクスリと笑ってしまった。全くもって、愉快で、不愉快な男。

 男はくるりと扉の方を見て、やっと決心した。

「ありがとうございました。もう行きますね」

 また思わず笑ってしまう。不思議そうに見てくる男に、僕は言った。

「そうですか、では」

 扉を開けてやって、お膳立てをした。

「どうぞ」


 男は来た時より身長を伸ばして帰っていった。



「またのおこしを、お待ちしております」

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