49人目の客人
「好きも嫌いも好きのうち、ってね」
女を探していた男性が出て行った後、すぐにやってきたその人は、やたらとこの状況に慣れるのが早かった。
それはそれは、異常なほどに。僕が驚くほど早く。
男は小屋にのんびりと入ってきて、僕が紅茶を勧めると、お気遣いなく、と一言日常のやりとりをしてみせた。
全く焦りを見せずに、ここがどこか分かっているように椅子に座っている男に、僕は声をかける。
「ここは、あなたの望んだ場所なのですか?」
その瞬間、一瞬だけ男の表情が変わる。それは少年のような微笑だった。
「ええ、何もかも、私の思い通りに世は動いていくのですよ」
世は自分のために存在しているのだと言下に言ってのけた男を、僕は注意深く眺めて、気に入った。
「あなたは、他に何かを望みますか?」
のんびりと紅茶を飲んで一言。
「私の望みで、あなたに叶えられることは一つもありません」
男は結局、誰の行方も聞かずに、僕と喋るだけ喋り、森へと、まるで散歩にでも行くように、入っていった。
僕は何故だかやるせなくなり、窓を開ける。
「行ってらっしゃいませ」
大声で叫ぶと、男は影の中で、少しだけ縋るような目をして、前を向いて、歩いていった。
果たして、彼の行方は誰の望んだものなのだろうか、とそう考えずにはいられなかった。
「またのおこしを心よりお待ちしております」
僕は何の意味もない言葉を吐いて、少しだけ、ため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます