49人目の客人

「好きも嫌いも好きのうち、ってね」


 女を探していた男性が出て行った後、すぐにやってきたその人は、やたらとこの状況に慣れるのが早かった。

 それはそれは、異常なほどに。僕が驚くほど早く。


 男は小屋にのんびりと入ってきて、僕が紅茶を勧めると、お気遣いなく、と一言日常のやりとりをしてみせた。


 全く焦りを見せずに、ここがどこか分かっているように椅子に座っている男に、僕は声をかける。



「ここは、あなたの望んだ場所なのですか?」


 その瞬間、一瞬だけ男の表情が変わる。それは少年のような微笑だった。


「ええ、何もかも、私の思い通りに世は動いていくのですよ」


 世は自分のために存在しているのだと言下に言ってのけた男を、僕は注意深く眺めて、気に入った。


「あなたは、他に何かを望みますか?」


 のんびりと紅茶を飲んで一言。

「私の望みで、あなたに叶えられることは一つもありません」


 男は結局、誰の行方も聞かずに、僕と喋るだけ喋り、森へと、まるで散歩にでも行くように、入っていった。


 僕は何故だかやるせなくなり、窓を開ける。


「行ってらっしゃいませ」


 大声で叫ぶと、男は影の中で、少しだけ縋るような目をして、前を向いて、歩いていった。


 果たして、彼の行方は誰の望んだものなのだろうか、とそう考えずにはいられなかった。


「またのおこしを心よりお待ちしております」

 僕は何の意味もない言葉を吐いて、少しだけ、ため息をついた。

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