48人目の客人
「邪魔するぞ」
スタスタと勝手に入り込み、周りを見回す男に、僕は少し表情に不愉快さを滲ませてしまう。
「こんにちは」
僕が男の目の前に立ち、真正面から挨拶をすると、男はようやく動きを止めた。
「ここに女が来なかったか」
少し怯みながら男は僕に問いかける。
「いいえ?」
僕は笑って少し迫力を押し返す。
思った通りに男は僕に恐怖心を覚えたようで、心持ち距離をとった。
「紅茶でもいかがです?」
男は、いただこう、と全く無駄な虚栄心を剥き出しにした。
「どうぞ」
僕が紅茶を置いても、男の目は違うものに釘づけになっていた。
「菓子も良かったらどうぞ」
少し笑いながら僕が言ってやると、男はキラキラと光る目で僕を見て、素直に菓子に手を伸ばした。
いくつもポンポンと口に突っ込む男に、僕は少し表情を緩めた。
ゴホゴホとケーキのスポンジを喉につまらせる男に、カップを渡してやると、男は少し頭を下げつつそれを受け取った。
「ご馳走様でした」
男はとても綺麗な笑顔で満足そうに言う。
「紅茶に入れる蜂蜜もありますが、いかがです?」
そう言ってやると、甘党の男はまた顔を輝かせる。
ふふ、と笑って僕が瓶を持っていってやると、それをたっぷりとよそって、くるくると楽しそうにマドラーでかき混ぜた。
「それで、女性とは?」
そう本題に戻してやると、毒を奪われた男は、スラリと言葉を口に出す。
「あるところから逃げ出してしまいまして、俺は下っ端なのですが、回収してこいと言われましてね……」
「それなのに何故あんなことをしたのですか?」
男は少し考えるような動作をして、サッと顔色を変えた。
「思い出しましたか?」
にこりと笑ってやると、男は拳を振り上げ、行き場を無くした。
静かにその拳をだらりと下げて、迷子のような顔になった男に、僕は行き先を照らしてやる。
「彼女を探してみますか?」
男は僕に縋るような視線を向けて、コクリと子供のようにうなずいた。
ふらふらと扉へと向かっていく男に、僕はそれを開けてやる。
揺らぎながら森へと入っていった男に、僕は少しお辞儀をしながら言ってやる。
「またのおこしをお待ちしております」
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