???人目の客人d

「こんにちは」

 急に小屋に入ってきた男に、彼ですら身構えた。


 ここは彼の庭で、彼の望む者以外は存在しないのではなかったか?


「美味しい紅茶、いただけると聞いて思わず来てしまったが、頂けないのかな?」


「今すぐ準備致します」


 僕は反射で答えて、表情すら動かない彼の横を通り、奥へと進んでいく。


 戻ると、2人は椅子に向かい合わせで座っていた。


「どうぞ」

 男に僕は紅茶を差し出す。

 いつもの動作なので、緊張していようが関係ない。


「なるほど、優雅だな」

 男はのんびりと言って、紅茶を上品に飲んだ。

「美味しい」


 噛み締めるように言って、ほっと纏う空気を和らげる男に、僕は心を奪われそうになる。


「師匠、それは僕のです」

 友人が喋り出した事で、僕は驚いてしまった。

 何故ならその声が、怯えを帯びていたから。


「お前は相変わらずだな。美味しいもの、というのが大雑把すぎる。

 こんなに美味しいものを飲んで、それでも納得しないなんて、なんて贅沢な」


 どんどん飲み干して、男は僕が淹れてきた紅茶を全て飲み終えた。


 友人は、その間、唇を噛んで我慢するような表情をして固まっていた。


「ご馳走様。

 美味しい紅茶を飲ませてもらった御礼に、次の材料を連れてきてあげましょう。喜んでもらえると嬉しいのですが」


 そう言って、にこりと笑うその表情すら迫力が隠されており、僕は少し期待を高める。


 椅子を蹴る音がして、彼が男へ飛びかかった、ところまでは見て取れた。

 まるで動きを捉えられなかったものの、結末だけは見えた。


 彼は男に一瞬で組み敷いたげられ、ギリギリと男が力を入れると悲鳴を上げるような顔になった。


「まだまだだな」


 男はひらりと彼の上からあっさり退いて、黒いローブをひらめかせた。


 鎌を手に取って、彼はにこりと笑った。


「また来るよ。可愛い僕の隣人さん」


「またのおこしをお待ちしております」

 僕が反射でそう言うと、男は花が咲かんばかりの笑顔を浮かべた。

 子供っぽいその純粋な笑顔に心が囚われそうになるが、なんとか踏みとどまる。


「君は、本当に可愛いね」

 クスクスと笑って、男は森の中に、ではなく、その場でふわりと消えた。


「僕がいるのに、やたらとあいつに心奪われる君のこと、僕は嫌いになりそうだよ」


 友人が遠回しでない文句を言ってきたので、僕は笑ってしまう。


 なんだよ、と不機嫌そうな顔を隠しもしない彼に、僕は言ってやった。


「僕はここが気に入ってます」

 彼の笑顔が咲いて、僕は少し面白くなってしまう。



 さて、遊ばれているのは、果たして誰なのでしょうね

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る