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ねえ、今日もこれで終わりだと思っちゃいないかい?
だよね? そんなのつまらないでしょ?
こっちへおいでよ。僕の宝物、見せてあげるからさ。
おいで?
「悪趣味ですね」
「なんだお前いたのか」
蝋燭を灯して持ってきてくれたあいつは、露骨に迷惑そうな顔になる。
「そりゃ、1人でそんな風に騒いでたら、寝てても起きますよ」
そりゃそうか、と僕は納得して、足取りを先へ向ける。
トントン、という軽い音が、部屋から地の下へと降りていく音だけが、無機質な白い通路と階段へ響き渡る。
今回はどんな感じだった?何人こいつは救ったんだ?
僕は、楽しみすぎて走り出しそうな気持ちを必死に抑える。
「おお!」
独房を見渡しても、骨の一つも置いていなかった。
「すごいね!」
はしゃいでクルクルと回る僕を、彼は呆れたように少し笑って宥めてくれる。
「もう次の客人がいらっしゃる時間ではありませんか?」
「ああ、言ってなかったっけか。今日はハロウィンだから、街へ出て行こうと思うんだよね!」
怯んだあいつを僕はニヤニヤするのを抑えて、圧力をかける。
「もちろん、一緒に行くよね?」
「……嫌です。お一人でどうぞ…?」
最後が疑問系になったのは、こいつのせいではなく、俺のせい。
彼は右腕があったであろう場所を、強く握りしめ、悲鳴を必死に呑み込んで、床へ倒れ込む。
「悲鳴が嫌い、ってよく覚えてたね」
偉いぞ、と言って僕は床に擦り付けられた彼の頭を撫でてやる。
「ねぇ、一緒にいくでしょ?」
やっと首を縦に振る彼を見て、僕は彼の痛みを剥ぎ取ってやった。
荒い息をして目を見開く彼は、まだ立ち上がれずにいるようだった。優しい僕は、彼を立たせてやろうとした。グイと腕を引っ張ると、幻肢痛でも発症したのか、妙に痛がって目を堅くつぶっていた。
ねえ、面白そうでしょ?君もこっちにおいでよ。
一緒に、皆を驚かせて、皮を剥ぎ取ってやろうよ。
理性なんていらない。自分の願いだけで動くみんな、キラキラとした原石たちは美しい光を放っている。
それが欲しくてたまらないのに、何故か僕のものにしようとすると、全部弾けて無くなってしまう。
なんで?
ねえ、
なんでかな?
僕はただ、それが欲しいだけなのに。
それってなんだっけ?
思い出せないけどいっか。
僕はそれを一瞬でも手に入れられるようになったんだから。
手に入れる……?
ほんとに手に入れられていると言えるのかな?
どうすれば、それがもらえるんだろう。
なんで、今まで散々馬鹿にしてきたその想い、欲しくなるんだろう?
誰か、
俺に、
教えてくれないか?
いや、僕はもっているじゃないか。
そういうものとは違うって?
なんて酷いこと言うんだ。
まあいいや、今日は久しぶりに外に出られる日。
存分に、楽しんでこよう。
みんなを、迎えにいくから、南瓜を用意して待っててね?
……それを、さっさと、寄越せよ。
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