始まりの書

「なあそろそろ帰らせろって」


 椅子に座って足をブラブラさせる男が1人。

 紅茶を目の前に置くと、ごくごくと一気飲みをしてくれた。

「なんだこれうめぇな!もう一杯!」


 雑なところが多すぎて軽く笑う僕を、彼はにこやかに見つめた。

「お兄さん、何者?僕の何を知っているんだ?」


 あなたの奴隷みたいなものです、とそう応えてやろうか、と一瞬意地悪な事を考える。

「あなたの未来の主人ですよ」


 ふざけて言ってやると、そっか、と何故か認めて紅茶を飲み出した。

 僕の方から仕掛けたのに、僕が面食らってしまう。


「怒らないのですか?」

 そう聞いてやると、その男は、別に、とそれだけ言ってガブガブ別に高級品でもなんでもない、僕が嫌がらせで出した安い紅茶を飲む。


「俺元々奴隷だもん。別に今更どうとも思わねぇよ」

 主人として認めるのにその態度はいかがなものか、と考えていると、彼は僕の思考を読み取ったようにこちらを向き、話し出した。


「俺は、人間が付けた身分なんて気にしねぇ。俺が何者か、それを決めるのは自分だって決めてんだ」


「……相変わらずお強い」

 疑問符を浮かべる彼から視線を外し、僕はのんびりと菓子の準備を始める。目の前に出してやると、その人ははしゃいだ声で言う。


「なんだそれうまそう!食べていいのか?」

 ちゃんと行儀良く尋ねてから食べようとする彼に、若干の違和感と庇護欲が湧いた。


「お腹が空いていたのでしょう?どうぞ召し上がりください」

 くださ、と言った時にはもうがっついて食べ始めた彼に、またクスクスと安堵の笑いが溢れる。


 彼は突然食べるのをやめて、こちらを見た。

「誕生日のプレゼント、本当にこんなのでいいのかい?」

 目の色から威圧感まで何もかもが違う今の彼が顔を出して、僕は嫌になる。


「もう少し浸らせていただけませんか?」

と言うと、まあいいけど、と彼は言って、子供の頃の彼に戻る。


 いい機会ですし、彼と出会った頃の話、この森と小屋の謎、少しずつ紐解いてみましょうか。

 皆様、個々に自衛なさってくださいね?ここからは安全は保証できかねます。

 こちらの世界にいらっしゃる覚悟がある方だけ、どうぞお付き合いください。



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