42人目(?)の客人
「なによ!ここどこなの!?」
入ってくるなり喚き立てる女を僕はさすがに持て余していた。
「ご自分でいらしたのにそんな事言われましても困りますねぇ」
本音をストレートに言ってやると、意外にも女性は静かになった。
「きゃあ!!」
突然大声で叫び声を上げた女性に、僕は内心の怒りを出さぬよう必死だった。
「虫だらけじゃないここ!掃除ちゃんとしてるの!?」
きゃあきゃあと喚き立て勝手なことを言う彼女。挙句、僕に擦り寄ってきた。
「ねえお願い!あいつら殺してよ!」
「はい?」
僕が少しイラついた声で言ってやると、なによ、と言って女は離れる。慣れたもんだな、と僕はため息をついた。
「紅茶を淹れますので、少し離していただいても?」
「あら、気が利くじゃない」
お前のためじゃない、と内心、かしましいその整った顔を歪めてみたくなる。
僕が奥へ消えても女性は話し続ける。シャンデリアが綺麗だ、とか、なんでこんなところに住んでるの、だとか。
「どうぞ」
僕が紅茶を差し出すと、女性は今までの行動が嘘のように、静々と紅茶を口に含んだ。
「いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
女性はじっと僕を眺めて、まあいいとばかりに頷いてみせた。
「あなた、何者です?」
「何者、ねぇ……」
そんなの自分だって知らないけど、と前置きして、彼女は話し出す。
「私は社長の娘で、習い事沢山やってる、ただの親の皮をかぶった女よ。だからこそ、私は身一つで成功してやるって決めたの」
「皮をかぶるのは嫌だったのですか?」
僕が聞いてみると、女性は高慢そうな顔でニンマリと笑った。
「嫌よ。だって私、こんなに美人なのに寄ってくる男といえば私だけじゃなくて父様のことばかり見るのよ?」
それじゃこの美貌が勿体ないわ、とそう言ってのけ、髪を片手で靡かせる。
自信家で可愛らしい夢を持っているその人に、僕は本題を打ち明ける。
「あなたがパートナーと決めた男性はいらっしゃるのですか?」
「沢山いるわね、でも選びきれないのよ」
何も隠さないその女性はどこからどう見ても危なっかしく、護りたいと思うのも道理だと思った。
「彼らをご存知で?」
僕が2人の写真を取り出すと、彼女の目は輝いた。
「あら、2人の知り合いの方だったのね!2人はどこかしら?」
作られたものじゃない、と分かって、やめておこうか、と思った気持ちが入れ替わった。
「ここ、実は地獄の入り口だと言ったら、どうします?」
女性はポカンとした顔を一瞬見せて、直後、堂々と言う。
「あなたを口説いて、地上へ戻してもらうわよ」
僕がクツクツと笑うと、女性も一緒に、秘事をするかのように小さく笑った。
「あなたはもうおかえりになる時間ですね」
「あら、もう? 楽しかったわよ、地獄の門番さん」
おでこにキスをして、女性は立ち上がる。
「まるでシンデレラのようなラストね」
「靴をお忘れになられても、僕は探したりいたしませんので、ご注意を」
そんなこと言われなくても分かってるわ、と屈託なく笑って、女性は扉を開け、夢の世界へ逆戻りしていった。
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