41人目の来客

「やっほーー!また来ちゃった!」


 何も言わずに紅茶を差し出すと、彼は美味しそうにそれを飲んだ。


「いやあ、今日のは特別美味しいな」


 失敗作に等しい適当に淹れてやった紅茶をのびのびと飲む彼に、僕は久しぶりに殺意が湧く。だが、彼らのために怒る、という気力はさすがに湧かず、その気持ちはどこかに消え失せた。


「なぁんだ、つまらんな」

 目を丸くさせ、僕の行動を逐一見ていた彼が、残念そうに言葉を吐く。

 ため息を漏らして、ポケットにあったタバコを取り出す。

「ちょっといい?いいよね?」


 そう言って彼は器用にタバコに蝋燭ろうそくの火を持って行って、やりだした。


 僕はタバコが嫌いなので、何も言うことをせずに窓を全開に開く。彼から非難の声が聞こえてくるが、そんなの知ったことではない。

(タバコなんかで死んでたまるかよ)

 僕の言葉はだんだんトゲが生えてくる。


「今日のお客は、男性3人だったよね?」

 面倒そうに頷くと、彼はニンマリして言った。


「彼らは、もう死んだよ。僕が食べちゃった」



 嘘だか本当だかよく分からない彼の言葉を無視して、タバコの煙が当たらないところまで移動する。窓からは外の雨がサラサラと入ってきていたが、それもどうでもいい。


「もーちょっとは聞きなよ。ね?」

 少し雰囲気を変貌させる彼を見て、仕方なく僕は相槌をうつ。


「彼らをA、B、Cとしようか。

 まず、生真面目だが不器用な彼、Aは、ある女性とずっと前から付き合っていた。彼は彼女を独り占めしたくて、親友のBにも言っていなかった。しばらく経って、Aはようやく自信がついてきた。Bに彼女のことを報告すると、Bにも付き合っている人がいる、ということを打ち明けられた」


 紅茶をカップごと窓の外へ放り投げる。


「そして、Aは、彼女が他の男とも出来ているのではないか、と疑いを持ち、Cを探ったが、Cは以前にAが会わせたBの実家にしか行っていない。これは他の男が潜んでいるのでは、と思って、探偵を雇った。その探偵Cは、真面目な好青年。だが、真面目なだけだったけどね!」


 じっと外を、自分の森、守りを眺める。


「その探偵、Bの家は問題ない、というAの忠告を無視して、念のためにBの事も探ったんだ。そしたらまあ出てくるわ出てくるわ」


 ふふふん、と上機嫌に鼻歌を鳴らす。


「探偵はその段階でAに感づかれて、AはBのやっていることを知った。だけど、もう一つ探偵は掴みかけていた」


 僕が頷いて先を促すと、楽しそうに、心底楽しそうに歌い上げた。


「探偵は、Aより先にBが付き合っていたのではないか、と突き止めたんだ」


 君はどう思う?と目だけで聞いてくる彼の視線を受け止めて、さあ、という顔をすると、彼はつまらなそうに目を瞑った。


「もーーもう少しちゃんと聞いてよ。今のところ見せ場だったじゃないか」


 僕は上のシャンデリアを眺め、目にその光を映す。


「僕には関係のないことですから」

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