28人目の客人

「すみません!息子を見ていませんでしょうか!」


 僕は微笑んだ、つもりだったが、客人は震え上がっていた。


(チッ……まあいいか)


 かなり気が立っていることを自覚して、手元を見ると、洗っている最中だった手が泡立っていた。


(確か紅茶にはイラつきを抑える作用があったな)


 僕は客人に目もくれず、紅茶を優雅に、ノンビリと飲む。


 一杯分飲み終わったと同時に、客人の腹の虫が鳴いた。


「ただいま菓子を持って参ります」


 そう言うと向こうも断りにくいらしく、かなりの時間を森の中で過ごすこととなる。



(ここはまるで、蜘蛛の巣だな)



 捕らえられたが最後、逃げられるかどうかは、その人がもがき苦しんで、苦しみぬいた先か、それともう一つの方法は、僕らを殺すこと、なのだから、そうそう逃げられない。


「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」


 男は嬉しそうに紅茶を飲んで、顔を顰めた。


「どうかなさいましたか?」


「……俺の故郷では、紅茶はそのまま飲むのが理想と言われてたんだ、

だが、俺は入っている方が好きだ」


 ああなるほど、と言って、大至急、砂糖とついでに菓子も持っていく。


 前に並べてやると、凄い勢いで食べ始めた。


 その間、僕は紅茶だけで、香りと味を楽しみながら、男が落ち着くのを待つ。






「申し訳ありませんでした」


 恐らく何処かの重役人とも思える、綺麗なスーツを着て、目を真っ直ぐ見つめれるようになった男は、今の自分ならなんだってできそうです!!ワクワクするなぁ、などと、何も知らずにはしゃいでいる。

 まあ、とりあえず、包丁を腰にくくらせてある男が見た目通りの好青年ではないみたいだな、と思い、僕は今度こそ和かな笑顔で僕は男に向き直る。




「いえいえ、お急ぎくださいませ。彼女は、あなたが思っている以上に、残酷ですからね」



 皆が何故私にそう愛情とでも言うものを押し付けてくるのか、僕は皆目検討もつかない。


 僕は、男が身代わりに、と預けていったロザリオを手に握ってみる。


「……っ!!」


 触った瞬間、全身に痛みと悲しみが満ちる。


 茫然と、落胆を覚えた僕は、鏡の前にうずくまる。


 僕は神に見捨てられ、悪魔に飼われているのか?それとも、とっくのとうに味方など居なくなっているのかさえ、僕にはもう分からない。


 どなたか、答えを教えてくれませんか?

 どなたか……お願いします。僕は、これ以上人を嫌いになりたくないだけなのです……


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