「いります?」
ぜっぴん
「いります?」
男が一人、ベンチに座っていた。頬杖を突きながら呆けているのは、やることが無くて退屈で、どうせだったら太陽の光を浴びようと思ったからだ。
携帯電話の画面には通話履歴を表示させているが、ここ一週間の通話は無い。
7月11日、蝉の声が煩い。
「いります?」
端に座って浮かない顔をしている男に話しかけたのは、もう一方の端に座って立派に育った髭をいじりながらリンゴを差し出すどっからどう見てもホームレスな男だった。
「え、いやいらないです」
いらなかったからというより、いつの間にか居た不衛生そうな人間に驚いて断った。
「いやこれおいしいんですよ。だから、ね?」
挫けず押し付けてくるようにリンゴを差し出すのに威圧されて、男は押し負けて受け取ってしまった。
「それ、おいしいから。ね。それ、おいしいから、うん、おいしいよ」
不自然なにやつき方をしてじりじりとホームレスの男は立ち去った。歩きながらもしきりに振り返って、なにやらほくそ笑んだ。
それを訝しみつつ受け取ったリンゴに目をやると、歯形が付いていた。
男はそれを見て、ひょいと投げ捨てた。
「いります?」 ぜっぴん @zebu20
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