Episode16/決着
包帯男との決着をつけるときが来た。
瑠奈は地に伏せ動く気配を微塵も感じさせない。
僕がやるしかない。ここは僕の世界だ!
好き放題やられて堪るか!
僕は現実では出せないほどの速度で包帯男の腹部に正拳突きを当てる。
しかし、包帯男は軽くそれを受け止め蹴りを穿つ。蹴りを喰らい背後に一歩下がってしまう。大丈夫、まえなら吹き飛んでいたはずだ。今なら戦える!
包帯男は口周りの包帯を外す。そこには僕と似ている口元が露になった。
「現実で生きる価値はなにもない。生きていて楽しいことはなにひとつ皆無。社会の害悪。両親への加害者。恥ずかしくないのか!?」
「うるさい! それくらい僕だってわかっている!」
再び突きを喰らわせ、次いで蹴りを放つ。それを包帯男は避けようとするが、蹴りが当たり背後に半歩下がる。
それを見逃さず連続で攻撃をつづける。
蹴り、突き、フック、顔面への手のひら打ち、平手打ち、頭突きを当てていく。
包帯男の包帯がほどけていき、次第に憎悪に満ちた僕自身の顔や半身が露になっていく。やはり、包帯男はーーシャドウはーー死を願う僕自身。
「死にたいんじゃなかったのか!?」
もうひとりの僕ーー包帯男は凄まじい速度で僕の腹部を殴り飛ばし吹き飛ばす。しかしすぐに着地し構えを取り、包帯男に歩み寄る。
「ああ、たしかに死にたい気持ちはある。でも、それは誰にでもある些細な感情だ! 生きたいと願う気持ちのほうが今は強い!」
「戯れ言を」
包帯男はほどけた包帯を操り僕の手足を縛り付ける。
「瑠奈だっている」
「その瑠奈はそこで死んでいる!」
「死んでなどいない! 僕が生きていると信じていれば、彼女は何度だって行き返る! ここは
「ふざけるな! 幻想にすがって生きていてなにが楽しい!? 友人も職もない親にも見放されたおまえになにができる!?」
包帯が締め付ける力が強まっていく。
「ああ、今までの僕ならそうだった。でも瑠奈と会って変わったんだ! 世界は僕自身が変わることによって変わるって!」
包帯をギリギリと突き破りはじめる。
「今さらおまえになにができる!? 誰にも見放された貴様に!」
僕は笑って見せる。包帯はあとちょっとで千切り抜ける!
「趣味は見つける! 就職活動もする! 社会の役に立ち親孝行して許してもらう! たしかに恥ずかしい人生を送ってきたさ。でも、なにもしないままじゃ一生の恥じゃないか! 瑠奈にも認められないじゃないか!」
包帯を引きちぎり、今度は包帯男ーー死を願う僕に一瞬で走り寄り腹部に拳を突く。一度ではない。
何度も、何度も、何度も、何度も!
一発では済まない。
倒れるまで攻撃はやめない!
次第に死を願う僕はよろよろと背後に足をよろけさせ、後退をはじめる。
「なにがーーなにがおまえをそこまで駆り立てる?」
「いろいろあるさ。でも、瑠奈にいろいろ言われたことが一番効いた!」
最後の一撃を、腹部を貫く想像をしつつ突きを放った。
確実に、絶対に、突き抜けなければおかしいという想像を元に。瑠奈に教わったとおり、ここは僕の想像の世界。だからこそ、僕の意識が、意志が、すべてを凌駕する。
「うぐ……はっ……」
腹部から出血しながら、死を願う僕はよろよろと更なる後退をはじめる。今にも倒れそうだ。
「……今から努力すれば一時の恥で済む。瑠奈に認めてもらえるような人間になりたいんだ! 今は心の底から願う。生きたい、と」
「おまえは……変わったの……か……?」
僕は死にたがりの僕に歩み寄る。じっくり、ゆっくりと。それでも最早死にたがりの僕には逃げる力もない。
「ーーだから、僕にはもう、おまえは要らない」
死にたがりの僕を最後に押し倒す。
「消えるのはおまえだ、死神」
ついに勝負は決した。
死神が生き耐えたのを確認した僕は、急いで瑠奈に駆け寄る。
瑠奈に声をかける。
「瑠奈! 瑠奈! 生きろ! おまえが生きていてくれないと、僕にはなにもできない! 幽界では想像がすべてなんだろ! なあ、瑠奈! 生き返ってくーーれーー?」
声をかける最中、現実のベッドの感触が全身に甦る。
頼む、瑠奈。生きていてくれ……。
そう願いを込めながら、僕は、ついに、現実世界へと帰還した。
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