Episode11/訓練
海岸付近の旅館で朝食を食べる。朝食は海鮮料理で美味しそうな料理が並んでいた。
ただし……料理を食べるが、やはり味が薄味すぎる。どうやらオレンジゼリーだけでなく幽体離脱のときの料理は味が薄いらしい。……ただ単に僕の離脱がまだ下手なだけかもしれないが。
しかし、瑠奈は普段からあまり物を食べないのか、文句を言わずに平らげた。オレンジゼリーのときは文句ぶうぶうだったのに。
今日は包帯男に対抗するための訓練をするのと、その包帯男の正体の推測をする、そして、どうして現実に帰れないか予想する予定だ。すべてがすべてできるわけではないかもしれないが、早めに帰るには仕方ない。
「まずは戦闘訓練だね。って言っても、砂風にはできそうにもないけど。まあ、やれるだけやってみよう!」
自分ですら勝てないのによく言う。
旅館の出入口に足を運ぶ。
「お出掛けですか? お気をつけて」
旅館の女将さんが出てきて声をかけてくれる。
「わかりました。ありがとうございます」
「ありがとー」
二人ともそれぞれの挨拶をして外に出る。
旅館からしばらく歩き、近場の砂浜まで足を運んだ。なぜ砂浜?
「あいつは目元と口をかくしてない。だから、そこが弱点だと考えられるじゃん」
「つまり、砂を目元にぶつけろと……」
相手を砂のある場所に誘導できなければ無意味なような。
「まずはナイフを創造してみてよ。まえみたいに柄だけじゃくて刃も一緒に」
「うん……」
はっ!
柄だけ。
ふん!
刃だけ。
そいや!
なにも創造できない。
「……ここまで才能がないと呆れるのを通り越して哀れだわ」
「う、うるさいなぁ……」
瑠奈は作戦を説明した。
相手は空を飛べない。なら、空中に浮かんでいるあいだに砂を創造して相手にぶつけて目潰し、その間にナイフで攻撃してダメージを与える。ナイフの握り方は傷つける目的の順手持ちじゃなく、相手を殺害するための逆手持ちがいいという。
「……ナイフは瑠奈が創造すればいいんじゃ……」
「……それもそっか」瑠奈は納得したように頷く。「なら、砂風は砂を創造して相手にぶつけて。で、空からわたしが奇襲をかけるから」
「砂って……ナイフより難しいような気がするんだけど」
「そこら辺に砂が落ちてるじゃん。リアルの砂を掴んで感覚を掴み、今度はなにもない空間から砂を創造する。第一考えてみればナイフなんて握ったことのないもの創造できないもんね」
カチンときたが、たしかにそのとおりだ。ペーパーナイフくらいなら握ったことあるけど。
僕は砂浜の地面に広がる砂を手に取り、じっくり感覚を研ぎ澄ます。これが砂か。これが砂の粒々かーー。
「これが砂風か」
うるさい!
いま集中しているんだ!
サラサラしていながら固くざらざらしている。粒々の大きさも地味に違う。
砂を手放し、手のひらを背後に回す。
幽体は物質を凌駕する。それは意識が強いほどに創造力は養われる!
いでよ!
砂粒よ!
「……」
砂が一粒だけ創造された。
「さすが砂風。ほかの砂は風に飛ばされたんだね」
「慰めだか嘲笑だかどちらかにしてくれよ……」
これを何度も、何度も、何度も、何度も!
日が暮れるまで練習した。
そのせいかがあってか、どうにか幾分かの砂を手に創造できた。
「ようやくできたね……もう夜だよ……。あの包帯男の正体を考察するのも明日にしよっか……」
「う、うん、ごめんなさい」
どちらにしろ、この砂を包帯男の隙を突いてぶつけなければならないのだ。
本番でできるか緊張してくる。しかし、あいつを倒さないかぎり問題のひとつは解決されない。
……問題のひとつ?
包帯男は、本当に問題のひとつなのだろうか?
もしかして……。
いやいや、変な考えは放棄して旅館に戻ろう。
幸い金銭は創造できる。異物な形はしているけど、旅館のカウンターのひとは納得してくれている。
これならいくらでも滞在できるだろう。
……包帯男が現れないかぎり……。
「さ、旅館に戻って休も」
「うん」
ーー包帯男は本当に今回の問題のひとつなのだろうか?
ーーもしかして、二つの問題とも包帯男が関わっているんじゃないんだろうか?
ダメだダメだ。
変な思惑を頭を振り霧散させ、僕たちは帰路につくのであった。
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