第3話
おかみさんが坊をおぶって氏神様で一心に夫の無事を祈っている間、馬飼いは夢で見たようにひとりでとことこと火の山を登っていきました。
山はいつでも地の底に熱をはらんでいるので、草も木もまばらにしか生えていません。
生まれたての赤子の頭のようにぽやぽやと生えた草の間を馬飼いが登っていくと、果たして赤い穂がそこだけわっさわっさと伸びて風に揺れていたのでした。
「おお、おお、夢で見たとおりだ」
馬飼いがそう言って穂の群れに手を伸ばしたときでした。
突然、山が、地の底からごろんごろんと鳴り出したではありませんか。
山の中が雷のように鳴って轟くのが、馬飼いの足の裏から腹の底にまで伝わってきます。
「こりゃあ、山が火を吹く前触れじゃなかろうか…」
さあ、大変だ、早く山を降りて村の衆に知らせねば…。
少し先に見える山の口から、火を吹くような熱い風が立ちのぼって、湯気が上がり出しています。
「こりゃ、えらいこっちゃ…」
一目散に逃げ下りねば、と思った馬飼いの目に、火口のそばの赤い岩がのっそりと起き上がるのが映って、馬飼いは肝をつぶしました。
「火柱だっ…」
腰が抜けて足ががくがくと立たないでいると、その赤い岩はゆっくりとかぶりを振ってしゃんと立ちあがりました。
「…馬…?」
火柱と見えたのは、真っ赤な一頭の赤い馬でした。
「こんなところに…はぐれ馬だか?
見たことのない馬だな…。
見たことのない毛足をしているな…」
思わず怖いのも忘れておずおずと近づくと、馬には手綱も鞍もなにもついてはおりません。
「おお、おお、こんなときにこんなところにおっては、おまえは焼け死んでしまうかもしれねえだ。
さ、おらと一緒に早くこの山を降りるだよ」
馬飼いが優しく話しかけると、赤い馬はその言葉がわかったように、しおしおとおとなしく首を撫でられています。
気がつくと山鳴りはいつの間にか鎮まっておりました。
さあ、この隙に早く山を降りなくては。そして、この具合が悪いのか疲れているのかしているこの馬を連れ帰って、とにかくよく世話をしてやろう。
そう思って馬飼いは赤馬を一緒に連れて行くことにしました。
夕暮れが下りてきた頃、馬飼いはお社で祈っていた、坊を背負ったおかみさんとやっと落ち合って、三人と一頭で家に帰りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます