14、

 おそらく、この遺跡が築かれた時期に生きていた人間の手によって生み出されたと思われる岩巨兵ロックゴーレムを前に、ハヤトたちは臨戦態勢に入る。

 ハヤトたちの殺気を感じ取ったのか、それともハヤトたちの存在を感知したためか、岩巨兵の視線がハヤトたちの方へ向く。

 すると、その瞳がチカチカと点滅をはじめ。


《侵入者を検知。魔力を測定……設定された魔力量には未到達なれど、霊獣の存在を検知。実力測定モードへ移行》


 無機質な音声が響くと、岩巨兵はその拳を振り上げ、ハヤトたちに向かって振り下ろす。

 その挙動は、やはりというべきかその巨体ゆえに鈍く、ハヤトたちは危なげなく回避し、反撃に出る。


「ハヤト! 魔術で楔を作って!!」

「了解っ!!」


 シェスカの声に、ハヤトは即座に複数の岩槍ロックランスを発動させ、岩巨兵に向けて発射する。

 突き刺さりやすそうな関節部分や自分たちを感知しているであろう目の部分を狙っていたのだが、岩巨兵はその狙いに気づき、岩槍が向かっていくる場所に自分の腕を挟み込む。

 岩巨兵の体の方は硬かったらしく、岩槍はその腕に弾かれ、突き刺さることはなかった。

 だが、ダメージを与えることこそできなかったが、囮にはなったようで。


「はぁぁぁぁっ!!」


 背後に回っていたシェスカが気合とともに岩巨兵の体に踵を勢いよく振り下ろす。

 さすがに体格に差があるため、大破することはなかったが、体の一部を欠けさせることができた。


《軽微な損傷を確認。体躯から想定される損傷量を上回ることが判明。優先対象として認定》


 シェスカの攻撃力を脅威を捉えたのか、岩巨兵はシェスカに狙いを定め始め、拳を振り下ろした。

 だが、シェスカはその拳を紙一重で回避し、即座に反撃を行う。

 さらに、ハヤトが岩巨兵にむかって再び岩槍を発射する。

 今度の岩槍は先ほど防がれたものとは違い、飛んでいく勢いが早いだけでなく、硬度も高いらしい。

 岩巨兵の体を貫くことはできなくとも、大きく体をえぐらせたり、シェスカに振り下ろされた拳の軌道をそらしていた。

 さらに。


「足元がお留守だぜ!!」


 カインが岩巨兵の足元を走り抜けていく。

 ただ走り抜けたわけではなく、導火線に火がついた状態の爆弾をいくつかばらまいていた。

 ばらまかれた爆弾は導火線を切断し、爆発時間を調整していたようで、カインが走り抜け、シェスカが拳を回避すると同時に爆発し、轟音を響かせる。

 さほど大きい爆弾ではないため、一つ一つの威力は大して大きくはない。

 だが、複数の爆弾が同時に爆発したことでそれなりの威力へと変化したようで、岩巨兵はバランスを崩し、体勢を崩した。

 その隙をついて、シェスカが握りしめた右拳を岩巨兵に突き出す。

 重い踏み込みと気合が重なったシェスカの拳は、岩巨兵の手首関節部に命中し、大きな音を立ててひびを入れた。

 だが、その代償に。


「くっ……」


 シェスカは右手首を左手で包みながら飛びのいた。

 その顔は苦痛に歪み、額には冷や汗が浮かび、右手からは血がぽたぽたと落ちてきている。

 どうやら、岩巨兵の体の硬さに彼女の拳が耐えられなかったようだ。

 シェスカは距離を離しながら、ポシェットから小さい試験管を取り出し、蓋をしているコルク栓を口で抜き、中に入っている薬品を右手に振りかける。

 すると、その薬品の即効性が高かったのか、右手から流れていた血は止まり、シェスカの顔からも苦痛は消えていた。


「なかなか硬いわね……どうしようかしら」


 岩巨兵の動きにすぐに対応できるように身構えながら、シェスカはどうしたものかと思案する。

 そんな状態の彼女の隣に、カインが駆け寄り、声をかけた。


「どうしようっていっても、お前さんが馬鹿力で殴るしか手はないだろ? てか、回復薬はあとどれくらいある?」

「それほど多くないわ。残りは三本くらいかしら?」


 カインの問いかけにシェスカがそう答え、ところで、とジトっとした視線を向けながら問いかける。


「誰が馬鹿力ですって?」

「あ、い……いやぁ、あはははは」

「そういうあなたの爆弾は……いえ、ダメね。下手をするとこの遺跡自体が崩れかねないし」

「そういうこと……それにこれ、あんまり数用意できてないだよ」


 一応、この爆弾はカインが用意したものらしい。

 だが、やはり準備時間の少なさが仇となったのか、それとも爆弾を使う事態になることそのものを想定していなかったのか、あまり多くは持ってきていないようだ。

 治療できたとはいえ、シェスカが負傷してしまった以上、カインの爆弾は決定打となりうるものなのだが、数が少ない上に、シェスカがいうように遺跡を崩壊させる危険性もある。

 再度使うとしても、あと一度か二度が限度だろう。

 となると、取れる手段は。


「俺とシェスカでかく乱。ハヤトにもうちっと強い魔術を使ってもらうしかないか」

「そうね……なら、このことをハヤトに伝えておいて。少しの間なら、引きつけておくから」

「了解っ!」


 シェスカの言葉にうなずくと、カインは駆け出して岩巨兵の脇をすり抜けてハヤトの方へと向かっていく。

 岩巨兵は動いているカインと、魔術を準備しているハヤトに狙いを定めたようで、シェスカから視線をそらし、ハヤトとカインの方へ拳を振り下ろそうとする。

 だが、引きつけておく、と言った手前、シェスカがそれを許すはずもない。


「あなたの相手は、こっちよ!!」


 跳びあがり、全体重を乗せて岩巨兵にむかって踵を振り下ろす。

 その攻撃で崩壊する、ということはさすがになかったが、再び岩巨兵の体の一部を欠けさせ、再びシェスカに岩巨兵の注意が向いた。


「さぁ、もう一勝負といきましょう!!」


 視線を向けてくる岩巨兵に、シェスカは拳を構えながらそう告げた。

 その心中ではカインに、さっさとするよう悪態をついていたのだが。

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