11、
「で、本当のところ、その依頼で何があったのさ?」
シェスカがバビロニカ教の僧院で体術と教義を学び、人型の魔物から素材を採取する行為に抵抗があることは理解した。
だが、指名依頼が出されるほどの信頼をギルドから得ているのなら、カインと衝突する理由は魔物の素材の件だけではないはず。
そう考えて、アミアは改めてシェスカに問いかけていた。
「……確かに、人型魔物の素材採取には納得していないけれど、理解はしているわ。だからこうして、冒険者として生きている。けれどね」
じろり、とカインの方へ視線を向け、シェスカは再び激しい口調でカインを糾弾する。
「依頼の最中だって言うのに、ほかの女性冒険者や一緒にいた女性店員さんを口説いたり、自分を売り込んだりする不真面目な態度はどうにも気に入らない!」
「……あぁ~、そういえば、あったっけねぇ」
「あったなぁ、そんなことも」
シェスカの言葉に、アミアとハヤトはしみじみとつぶやく。
カインとパーティを組むきっかけになった護衛依頼を受けた際も、依頼主にいいところを見せようと躍起になって活動していたり、トネリコ村に住んでいる年頃の女性を口説いていたり。挙句、一緒に行動していた専属冒険者パーティーの女性メンバーに言い寄って平手を食らっていたり。
もう少し、真面目にやれないのだろうかと、二人そろってため息をついていた時期もあった。
いまはもう慣れてしまったため、ため息をつくこともなくなったのだが。
「ただでさえ、冒険者の中には増長して失礼な態度を取ったり不真面目に仕事に取り組んだりする人たちがいるの! そんな人たちに迷惑をかけられている人たちのことも少しは考えて……」
「しかたねぇだろ? 俺はこういう性格なんだ。それに、真面目にやってたってぼられるときはぼられるし、不真面目にやっても結果が上々だったらしっかり報酬をもらえる。なら、気を張ってばっかでいないで適度に力を抜いて取り組んだ方がいいんだよ」
つまるところ、シェスカはカインが真面目に仕事をしていないその態度に苛立ちを覚え、その場で説教をしてしまったようだ。
が、聞く耳を持たない。いや、持つつもりがないカインに何を言っても無駄だということを理解せず、どうにかしようとしつこくせまった結果、険悪な雰囲気を生み出すまでになってしまったらしい。
「……なぁ、アミア。俺、思ったこと言っていいかな?」
「……ハヤト。たぶん、僕もおんなじこと思ってる」
一通り、話を聞いたハヤトとアミアは互いに目を合わせてため息をつきながら。
「「ほぼ全面的にカインが悪いけど、シェスカのあきらめの悪さのせいでもあるよね?」」
カインの不真面目さについては、ハヤトとアミアも更生しようとしたことはある。
だが、二度や三度どころか、五度、六度と少しは真面目にしてほしいと頼んできたというのに、まったく態度を改めなかったため、最終的にハヤトとアミアの方が折れることになったのだ。
もっとも、斥候の仕事やある程度は節制をしてくれるようになったため、二人の頼みがまったくの無駄であった、というわけではないが。
「カインの不真面目さに関しては、もうこっちが折れるしかないから、シェスカも少し我慢した方がいいんじゃないかな?」
「変に更生させようとしないで、ある程度、こっちが我慢して受け入れたほうが、案外とうまくいくんじゃない?」
「むぅ……」
二人の言葉に、シェスカは頬を膨らませる。
カインの扱いに困っているという点では、ハヤトとアミアはシェスカと同類だ。
しかし、カインの態度の悪さを受け入れるだけの大きさの器を持ち合わせているかどうかで、その後の関わり方が変わったらしい。
ハヤトとアミアは、諦めの境地に立ったとでもいうのか。とにかく、不真面目さもまた、カインの色であることを受け入れ、口うるさく追及することをあきらめた。
一方、シェスカはその時が初の顔合わせであったということもあってか。それとも、彼女自身の生真面目さが災いしているのか。
ともかく、カインの不真面目さが気に入らず、しつこく追及してしまった結果、険悪な雰囲気を用意に生み出しやすくなってしまったようだ。
「けれど、この態度はやっぱり今後の活動に支障をきたすんじゃないかしら?」
「そこをどうにかフォローするのが僕らの役割なんじゃない?」
「というか、必然的にそうなるよねぇ……」
「お? それじゃ俺は今まで通り……」
だが、シェスカはやはり納得できていないらしく、抗議の声をあげる。
その声にアミアが自分たちでどうにか折り合いをつければいいという意見を出し、ハヤトがそれに同調する。
そのやり取りで、カインは今後も態度を改めずに済むと解釈し、気の抜けた笑みを浮かべた。
しかし、カインの言葉にハヤトは即座に合の手を入れる。
「けど、増長されても困るからな。このままシェスカにはお説教役を引き受けてもらおうかな」
「あら。それなら、今まで以上に厳しくしてもいいのかしら?」
「うげ……ハヤトぉ」
「俺としても、それがちょうどいいかなぁ」
「案外、その方がカインのためになるかもしれないね」
フォローはするが、シェスカがカインに説教をすることも止めるつもりはない。
むしろ、大歓迎である、と言いたそうなハヤトとアミアの表情に、カインは苦笑を浮かべ、うなだれるのだった。
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