8、

 スケルトンの群れを退け、素材回収を終えたハヤトたちは遺跡の探索を再開する。

 だが、スケルトンとの戦闘前と比べて、カインとシェスカの間に流れる空気が重苦しくなっているようにハヤトは感じていた。

 もしかしたら、先ほどまでシェスカと一緒にいたアミアが何か知っているのではないかと思い、ハヤトは肩に乗っているアミアに問いかける。


「なぁ、アミア。さっき、シェスカとカインの間に何かあったのか?」

「う~ん、あったと言えばあったんだけど……僕からは何とも」

「もしかして、二人の過去に関わることだったりする?」

「かもね。カインが何かを知っていそうな感じだったし」


 ハヤトとアミアは、カインとシェスカの二人とパーティを組んでいるが、二人の過去についてはほとんど知らない。

 もともと、冒険者を目指した人間は様々な事情を抱えているもので、同業者の過去を詮索することはマナー違反。それが暗黙の了解となっている。

 そのため、たとえパーティメンバーであっても、パーティを組む以前に何があったのか、その事情を聴くことはせず、メンバー自身が話したいと思うまで互いに信頼を築いていくのだ。

 ハヤトもアミアも、カインとシェスカのことを信頼していないわけでないが、あくまで仕事上の信頼であり、もう一歩、踏み込んだことを聞かれても構わないと思ってはいない。

 だから、二人の間に何があったのか。知りたいという気持ちはあっても、聞こうとまでは思っていないようだ。


「まぁ、お互い様だから無理に聞くことだけはしないようにしようか」

「そうだね……僕としては、ハヤトと僕が出会った経緯くらいは話してもいいと思ってるけど」

「まぁ、そこは機会があったらかな。少なくとも、今話すことじゃないだろうし」


 下手に今、自分の過去を話して今後に支障をきたすよなことになれば、遺跡攻略はもとより、自分たちの命すら危うくしてしまうかもしれない。

 その危険を避けるために、ハヤトは自分たちの過去を今ここで明かすべきではないと判断しているようだ。

 それにはアミアも賛同しており、それなら、カインとシェスカの間に何があったのか、この場で問いかけるべきではないという判断を下し、ひとまず、自分たちからこれ以上、詮索をすることは控えることにした。

 そんな一人と一匹の気遣いをよそに、カインは遺跡の通路に仕掛けられた罠を次々と解除し、道中の安全を確保していく。

 だが、そこには体力の消耗という、生命体である以上、回避することのできない生理現象というものが存在しており。


「……なぁ、俺、そろそろ疲れたんだけど……」


 それまで調子のよかったカインが、急に力なく遺跡の床に倒れ込んだ。

 どうやら、極限状態の集中力を維持することに注力するあまり、体力の配分を誤ってしまったらしい。

 精神的な疲労と空腹が一気に襲いかかり、カインは一歩も動けない状態へと追い込前てしまったようだ。

 が、空腹や疲労は、シェスカもハヤトも感じていたところであり。


「それなら、このあたりで一度、食事にしましょうか」


 とシェスカから提案がもたらされた。

 先ほどの戦闘もそうだが、遺跡に入ってからしばらく経つというのに、一度も休憩を取っていない。

 蓄積された精神的、肉体的疲労がそろそろ顔を出し始めるころだ。

 そんなときに、魔物の襲撃を受けたのではたまったものではない。

 ならば、安全が確保された今の状態で休憩を取るべきと判断したのだろう。


「それもそうだね。ここらで休憩しようか」

「……んじゃ、ちゃちゃっと何か作るか」

「あぁ、けどちょっと待った。二人とも、こっちの方に寄ってくれないか?」


 アミアがシェスカの言葉に賛同すると、カインは荷物を紐解き、調理器具と食材を取り出そうとする。

 だが、ハヤトがそれに待ったをかけ、部屋の隅の方へと移動していく。

 一体、何を始めるつもりなのか。

 気になったカインとシェスカが言われた通り、ハヤトの方へと近づいていく。


「で、なんだよ?」

「どうして、壁の方へ寄っていくの? まぁ、死角を減らすということならわかるけれど」

「うん。けど、安全地帯は確保したいからさ」


 遺跡だけではなく、森や古城、洞窟と言った場所では、いつ魔物の襲撃を受けるかわからない。

 そのため、それらの場所で食事などの休憩や休息を取る場合、必ず見張りを立てる必要がある。

 見張りを立てず、安全地帯を確保するには魔物を寄せ付けない結界を作り上げる魔法具や香を使用するのだが、魔法具は性能にピンキリがあり、そもそも価値が高く、なかなか手を出せるものではない。

 そのため、香を利用する冒険者が多いのだが、地下遺跡であるこの場所で煙を出すことはあまり好ましくはないため、見張りを立てる以外の選択肢を選びようがないとシェスカは思っていた。

 そのため、ハヤトの言葉に少しばかりの疑念を抱いている。


――魔法具も香も利用しないで安全地帯を確保するなんてこと、できるのかしら?


 ひとまず、お手並み拝見とばかりに静観することにしたシェスカだったが、次の瞬間、目を丸くすることとなる。


岩壁ロックウォール


 ハヤトが魔術を発動させ、岩の壁が出現させ、三角形の小部屋のようなスペースを作り上げた。

 壁は片方の端が部屋の壁と接触しているが、もう片方の端が壁と接触していないため、中途半端な形ではある。

 高さは自分たちの身長の二倍近い高さがあり、天井には触れていない。

 だが、これだけの高さがあれば、そう簡単に魔物が侵入することはないだろう。

 そこまで気を回しているというのに、なぜ完全な三角にしなかったのか。

 そこに気づいたシェスカがその意図をハヤトに問いかけようとする。


「ねぇ、ハヤト。なんであそこだけ隙間をあけているのかしら?」

「あぁ、それは……」

「なぁ、その前に飯にしようぜ。もう腹減ってしたくする気力がわかなくなっちまう」


 問いかけられたハヤトは当然、返答しようとしたのだがカインの一言で、シェスカは今すぐに問いかけることをあきらめ、カインの料理支度を手伝うのだった。

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