8、魔術のレッスン
トネリコ村に到着した一行は、マークスの手伝いをしたり、疲れを癒したりして思い思いの時間を過ごしていた。
ハヤトもまた約束したということもあり、アリシアに基本的な魔法を教えることになり、アリシアの家にお邪魔することになったのだが。
「う~ん……? う~ん……??」
魔法の使用に必要な基礎技術である、魔力操作を習得しようとしているのだが、どうにもうまくいかないらしく、首をかしげながら唸っていた。
一見すれば可愛らしい様子ではあるのだが、本人はいたって真剣であるため、笑ってしまっては失礼と思ったのか、ハヤトの顔も真剣そのものだ。
「やっぱりちょっとわかりにくいかな?」
「うん……」
ハヤトの質問に、アリシアはしょぼんとした様子で答える。
その様子に、どうしたらもっとわかりやすく説明できるか、悩み始めるハヤトに、アミアは苦笑を浮かべていた。
「まぁ、いくら基礎技術だっていっても、口で説明されてもわからないし、自分の感覚しか頼ることができないからねぇ」
魔力操作は、体内に宿っている魔力を手や杖などに集中させ、魔法を発動させる起点となる場所を定めるために必要な技術だ。
この技術を習得していなければ、魔法を使うことができないというわけではないが、発動起点を定めていない魔法は、どこで発動するかわからないという。
詳しいことはハヤトも知らないのだが、魔法を教えてくれた師に曰く。
『魔力操作をせずに《
とのことだ。
なお、その実験を行った魔術師は、魔法の威力を最小限にとどめていたことと、万が一に備えて腕利きの医療班を待機させていたおかげで大事にはならず、今も元気に研究を続けているらしい。
そのことは、魔法を教えるにあたって、最初に教えていたため。
「わかんないけど頑張る!」
と、アリシアはやる気をなくすことなく、一生懸命練習を続けていた。
だが、練習を重ねるうちに、もっと効率のいい方法があるのではないかという考えは、当然、出てくるものであり。
「魔力を集中させた場所は、その部分が温かく感じるっていうけど……お水で冷やした方が冷やした方がわかりやすいのかな?」
練習の手を止めて、ハヤトとアミアに問いかけた。
その問いかけに目を丸くした一人と一匹は。
「なるほど」
「その発想はなかったなぁ……」
と感心していた。
アミアに至っては。
「というか、ハヤト。君が修行していた頃と同じ方法で教えればいいんじゃないの?」
と、ハヤト自身の経験を基盤にした訓練を行うことを主張する始末。
その言葉にハヤトは渋い顔をする。
極力、表情に出さないよう、ハヤト自身は努力していたのだが、それを見抜けないほど、アミアは甘くはなかった。
「どうしたのさ? なんかすっごく嫌そうな顔してたけど?」
「あぁ、うん……なんというか、思い出したくないことを思い出した」
怪訝な顔をするアミアに、ハヤトは何時間も煮込んであらゆる成分を抽出した特別に苦い茶を飲んだかのような顔をしながら答える。
その顔を見た瞬間、アミアはこれ以上、このことについて追及しない方がよさそうだと感じ。
「あ、うん。わかった、これ以上は何も聞かないよ……」
「そうしてくれると助かる」
「あぁ……なんか、ごめん」
これ以上追及はしないことを約束した瞬間、うなだれるハヤトの姿に、アミアはかえっていったいどんな壮絶な経験をしたのだろうかと疑問を抱いてしまった。
だが、これ以上は何も聞かないと言ってしまった手前、ここで追及することはできない。
――まぁ、機会があれば聞いてみるか……
よほど苦い経験をしたのか、アリシアの指導をそっちのけにしてうなだれ続けているハヤトの姿を見ながら、アミアはその機会が来ることに期待しつつ。
「お、お兄ちゃん? だ、大丈夫??」
「あぁ、うん。ちょっと修行時代のこと思い出しただけだから……それよりアリシア。手だけでも冷やしてきたらいいと思うよ?」
「わかった! ちょっと行ってきます!!」
すっかりやる気になっているアリシアと、冒険者よりも教師になったほうがいいのではないかと思わせる雰囲気を出し始めている相棒を見守っていた。
なお、アリシアが呟いた『魔力を集中させたい箇所を冷やす』という妙案だが。
「おぉぉぉっ??!!」
見事に大当たりしたらしく、今まで感覚をつかむことができなかったアリシアが、初めて覚えた感覚に奇妙な悲鳴を上げていた。
「な、なんかすっごく手があったかくなってきたよ?! お兄ちゃん、もしかしてこれ、成功?!」
魔力が集中している手を掲げ、ハヤトとアミアの方へ視線を向けながら、キラキラとした目で問いかけてくるアリシアを見て。
「なんつこった……」
「温かく感じるのなら、事前に冷やしておけばいい……道理と言えば道理なんだけど、なんでいままで気づかなかったのかなぁ?」
「固定観念ってやつかね? いやはや、子どもの発想っていうのはほんとに」
ハヤトとアミアは、これが『魂消る』ということか、と同時に思うのだった。
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